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ー 去年のM–1グランプリで準決勝に進出して話題に
カゲヤマ(写真左からタバやん。、益田康平) 写真提供/吉本興業

 かもめんたる・岩崎う大が、注目のお笑い芸人の今後を予想する連載企画。今回の芸人はカゲヤマ

去年のM–1グランプリで準決勝に進出して話題に

 今年のキングオブコントで強烈なインパクトを残し、見事準優勝に輝いたカゲヤマというコンビをご存じでしょうか。

 結成は2009年なので、若手の中ではそれなりに芸歴を積んでいる、30代後半の同級生ぽっちゃりおじさんコンビです。背が低く、ウエーブがかったロン毛で髭のほうのぽっちゃりが「タバやん。」、背が大きくて人の好さそうなぽっちゃりが益田康平です。

 正直に言って清潔感もなければ、野性味も感じさせない、ちょっと内向的な雰囲気の2人。

 そんなカゲヤマを今回取り上げたのは彼らが今まさに波に乗っているからです。カゲヤマはもともとコントを中心に活動してきたコンビなのですが、去年のM–1グランプリでいきなり準決勝に進出して話題になりました。

 そのときのネタが「理想の妹」を題材にしたもので、ぽっちゃり中年2人が扱うそのテーマは、2人の演じる熱量と相まってものすごいインパクトを残す漫才になっていました。

「キモすぎやしねえか!」という益田が妹を演じるタバやん。に放ったツッコミはそのままネタのタイトルになってもいいぐらいのキラーフレーズとしてお笑いファンの脳裏に焼きついたのでした。

 2人としてはコンビ結成以来ずっと打ち込んできたコントよりも先に漫才のほうでお笑い界の話題になったことは複雑だったかもしれませんが、すぐにキングオブコントの女神にも微笑まれるという結果になったわけで、今彼らに波が来ていることは一目瞭然なのです。

 そんなカゲヤマが今年のキングオブコントで披露した、謝罪する先輩のコントは勇気とアイデアの詰まった素晴らしいネタでした。

 仕事でミスをした後輩の代わりに、先輩が料亭に呼び出した取引先に謝罪するという流れで、襖の向こうから聞こえる先輩の謝罪の声にいたたまれず、後輩が襖を開けると先輩の裸のお尻が見えて驚愕するというストーリーです。

 生のお尻を出すわけですから若手芸人としてはゴールデンタイムの大会の予選にこういう下ネタの範疇にくくられる可能性のあるネタを持っていって評価してもらえるのか? もしかしたら面白いかどうかの審査の前にはじかれてしまうかもしれないと心配して避けるものです。怖くてできない芸人がほとんどだと思います。

 彼らはそこを突き通したわけで、こういう勇気ある決断をできるのがまさに今カゲヤマが芸人としてノッてる証拠なんですよね

 そして、彼らは単に無謀な賭けに出たのではなく、しっかりと楽しく安心して裸のお尻を楽しんでもらえるためのアイデアを出し合い、研究を重ねたのだろうということもあのネタの完成度を見たらわかります。

 もともと2人はものすごくこだわった小道具を作ったりと、笑いへの努力を惜しみません。

 キングオブコントのネタにしたって決勝に行けるかどうかわからない中で、襖を使う大がかりなネタを準備する労力は相当なものだったでしょう。

 決勝の数日前、2人にインタビューをする機会がありました。冒頭で述べたとおり彼らには清潔感もなければ野性味もありませんでしたが、にじみ出てくる可愛げがありました。インタビューをしながら「決勝で良い結果を残してほしい」と心底思いました。

 面白くてひたむきな芸人を応援したくない人はいないと思います。カゲヤマが今来ている波に乗って遅咲きの大輪を咲かせることを楽しみにしています。

岩崎う大 1978年東京都生まれ。早稲田大学卒。かもめんたるとして槙尾ユウスケとコンビを結成。キングオブコント2013年優勝。お笑い芸人だけでなく、脚本家、放送作家、漫画家として多彩に活躍中