今回のケースで思い出すのは、2020年、ネット通販大手Amazonが有料会員向けサービス「Amazonプライム」のCMに国際政治学者の三浦瑠麗氏を起用した際に起きた批判である。この時は、三浦氏がメディア上で徴兵制導入を主張していたこと、大阪に北朝鮮の工作員が潜伏していると発言したことなどが批判を集め、Twitter(現X)上では「#Amazonプライム解約運動」のハッシュタグが拡散した。

 SNS上では取り下げに対して肯定的な意見は多かったが、脳科学者の茂木健一郎氏、メンタリストのDaiGo氏は「解約運動」に対して批判的な意見を述べている。

 今回の成田氏の件についても、編集者の箕輪厚介氏がX上に広告取り下げを批判する意見を投稿している。

(画像:箕輪厚介氏のXより)
(画像:箕輪厚介氏のXより)
【写真】「まじうるせえな。」箕輪厚介氏のX

 2つの事例では、下記の点が共通している。

1. 有識者の広告起用において、当人の過去の社会的な発言が洗い出されて批判されたこと 2. SNS上でCMに起用した企業への““不買運動”が起きたこと 3. 取り下げに関して賛否両論の声が見られること

 ただし、AmazonプライムのほうはCMの取り下げを行っておらず、企業側の対応は異なっている。

 今回のキリンの案件についても、広告の取り下げを行うべきか否かという明確な判断はしづらかったように思える。成田氏の発言を前後の文脈も踏まえて解釈して不適切であったと断定できるのか? 広告の継続、あるいは取り下げによって商品の売り上げやブランドイメージにどの程度の影響を与えるのか?(SNS上で「不買運動」が拡散しても、実際に売り上げが減少するほどの影響を受けることはほとんどない)といった点を考えると、どちらの選択もありえたように思える。

そもそも、なぜ成田氏を起用したのか?

 SNS上では「キリンはどうして(問題発言のあった)成田氏を広告に起用したのか?」という声も少なくない。実際、高齢者をめぐる成田氏の発言は、当時それなりに大きな物議を醸している。キリン側がそれを知らなかったとは思えないし、起用時の検討要素として挙がらなかったとも考えづらい。

 実は、キリンの成田氏の起用は今回が初めてではなく、2022年3月に「麒麟特製 レモンサワー」のWEB動画に成田氏が出演している。この起用は、成田氏の高齢者に対する発言がなされてさほど時間が経っていなかったタイミングである。しかし、この時点では発言は炎上しておらず、起用についても目立った批判を浴びることはなかったし、当然のことながら、動画は取り下げにもならなかった。口コミを見る限りでは、動画の評判も悪くない。

 このたびの氷結無糖での起用においては、発言から時間も経っているし、成田氏は現在でもテレビに継続的に出演している。キリンの担当者が「起用しても問題はないだろう」と判断したことは想像に難くない。