騒動に発展したのは、前回と比べて、今回は少し目立ち過ぎたことが理由だろう。これまでCMに起用されてきた小峠英二氏、若槻千夏氏に今回、成田氏が加わるという形になり、グラフィック広告とWEBムービーで展開されることになっていた。前回の起用とは規模感が大きく異なっている。

 SNSでの批判は、事前に予測しづらいというのが実際のところである。SNSで批判されるか否か? 批判がどのくらい拡散するのか? といったことは、偶発的な要素に左右されることも多く、いくらSNSに日常的に親しんでいても、いくらSNSの口コミを分析していても、完璧に見通しを立てることは不可能である。

 そもそも、批判を浴びた成田氏の「集団自決」発言にしても、番組で発言があった段階では、さほど大きな問題になっていたわけではない。弁護士のインフルエンサーが成田氏の発言を発掘してSNSに投稿し、それがきっかけとなって成田氏がテレビ番組にコメンテーターとして出演していることが疑問視されて、批判が増幅されていった。海外メディアでも取り上げられ、それが国内メディアでも報道されることで、問題はさらに大きくなった。

 程度にもよるが、こうした騒動を回避したいのであれば、あらゆる可能性を想定したうえで、リスクがあると見なされる場合は起用を見送る――という判断をする他はない。

発言内容で判断することは意外に難しい

 出演タレントが不祥事を起こしたとか、広告に不適切な表現があったとか、そういったことであれば、取り下げを判断することはさほど難しくはない。

 しかし、出演者の社会的、政治的な発言によってCM起用の是非を判断することには様々な困難が伴う。もちろん内容にもよるが、表現の自由は尊重されるべきであるし、広告活動とは直接的に関係しない個人の思想や信条を広告起用の判断要素にするべきなのかという議論もある。

 明確な差別発言や、社会正義に反する言動であればもちろんCM起用にはデメリットも大きいが、そうではない発言の場合、明確な線引きは難しい。

 この問題は、有識者のみでなく、芸能人の起用においても顕在化している。芸能人が政治的な発言、社会的な発言を行うことは、以前と比べて一般的になっているし、芸能人自身がSNSアカウントを開設して情報発信をしている現状では、芸能事務所側が発信する情報を逐一管理したり、統制したりすることは現実的でなくなってきている。

 そうした中で、CM起用の基準に関しても何度か議論が巻き起こっている。2018年に、タレントのローラさんが、沖縄・辺野古への米軍基地移設計画に関するインターネット署名への協力をSNSで呼び掛けた際に、出演CMが降板になる可能性が指摘された。2020年にも、検察庁法改正案に対して多くの芸能人がSNS上で反対を表明したが、この際にも出演CMに対する影響が懸念された。実際には、芸能人の「政治的発言」によってCMが降板になるという動きは見られてはいないが、起用された芸能人、起用した企業が批判を浴びるという現象は起きている。