「俳優のブラッド・ピットになりすました詐欺師にフランス人女性が1億円以上騙し取られた事件が、2025年1月に話題になりました。日本でも同時期に、イーロン・マスクをかたる人物から詐欺被害に遭った女性もいるんです」(多田さん)
1年半にわたり騙され続けた母親
海外メディアによると、50代のフランス人女性は、インスタグラムでブラッド・ピットの母親と名乗る人物と知り合い、交流が始まった。AI生成された病床の画像からピットが腎臓がんだと信じ込み、アンジェリーナ・ジョリーとの離婚手続きで銀行口座が凍結されたという彼に代わり、治療費などをトルコの口座に送金したという。女性の娘は何度も詐欺だと説得を試みたが聞き入れられず、母親は1年半にわたり騙され続けた。
また、2025年1月には兵庫県在住の60代女性が、TikTokで知り合ったイーロン・マスクを名乗る人物から、約50万円を騙し取られるといった報道も。
「頭ごなしに詐欺だと言うと、本人はその自覚がないので怒り出し、人の話を二度と聞かなくなってしまうんですね。まずは客観的な情報をしっかり聞き取り、自発的に詐欺だと気づかせるよう粘り強く話すしかない。複数の人からたくさんの情報を与えて詐欺だとわからせるのも対応策です」(多田さん)
日本の有名人の名をかたる同様の詐欺や、著名人の画像や名前を無断使用したSNSの偽広告による投資詐欺も発生しており、実は身近で深刻な問題だという。
副業や小遣い稼ぎから闇バイトへ
「最近では中高年でもスマホを使い、SNSを利用する機会が増え“副業案内”や“お小遣い稼ぎ”という募集文言にひかれて闇バイトに加担する事案が増えています。募集要項に年齢制限がなく簡単に稼げる仕事と出ていれば、年金だけでは生活が困窮するという人などはつい応募してしまうことがあるのかもしれません」(多田さん)

特に多いのは、他人になりすまして口座を開設したり、自分の口座を譲渡して報酬をもらう案件だという。
「口座の譲渡はれっきとした犯罪にあたりますが、その知識がない方は多いですし、節税対策で口座を貸してほしいなどと騙されていることも。携帯電話を新規契約させられ、それが知らぬ間に詐欺の道具に使われる可能性もあるので、十分注意しましょう」(多田さん)
怪しい情報源や申し出には警戒すること。多田さんは急かされたり、未知の情報に飛びつくことは避けて注意深く行動してほしい、と言う。

多田文明さん/1965年生まれ・宮城県出身。多種多様な詐欺・悪質商法の手口に精通するジャーナリスト。キャッチセールス等の勧誘現場に潜入取材した活動をまとめた著書『ついていったら、こうなった』が2007年にテレビ番組化。現在はその知識を生かし、メディア出演や講演を行う。
取材・文/植田沙羅