これまで経験したことのないほどの激痛が
「担当医からは、『ポリープはさらに大きくなる可能性があるから、切除したほうがいい』と言われました。ですが、その時はアテネ五輪選考会前年の大切な時期。今、処置をして練習に戻れなかったら……という不安からすぐには決断できず。結局、それから半年ほど後、五輪選考会の3か月前にポリープを切除しました」
しかしホッとしたのもつかの間、その後も不調は続くことになる。
「生理前の体調不良がさらにひどくなってしまって。婦人科の担当医と相談して、大会と生理が重ならないよう、中用量ピルで月経周期をずらして調整することにしました。それにより、大会の時は生理の影響を回避できましたが、一方で、副作用による体調不良に陥り、吐き気、むかつき、むくみなどの症状が出てコンディションを崩すことが多くなりました」
それでも、2004年アテネ五輪の代表選考会で、女子ハンマー投げで初優勝。その後、日本記録を樹立し、五輪への出場が内定した。
日本の投擲種目を牽引すべくトレーニングを重ね、32歳となったある朝、今度は下腹部に激しい痛みが走る。
「これまで経験したことのないほどの激痛でした。お腹の中に膿がたまってギュウギュウに膨れ上がっているような感覚があり、悶絶しながら“破裂する!”と口走っていました」
救急外来での検査後の診断は、子宮内膜症(チョコレート嚢胞)。
「卵巣にできた嚢胞(腫瘍)が気づかないうちにどんどん大きくなり、最終的に破裂してしまったんです。ポリープの問題が解決したと思ったのに、まさかのことで……。ただ、思い返してみれば、激痛が起こる2~3か月ほど前から、生理の1週間前ぐらいになると、ギューッと締めつけられるような痛みが下腹部にあり、信号待ちの際にうずくまってしまったこともありました。その時は、またポリープができたのかなとイヤな予感はあったものの、もっと深刻な病気になっているとは、まったく想像できませんでした」
治療は、まず低用量ピルを用いたホルモン療法で、腫瘍を縮められるか様子を見ることに。しかし、残念ながら腫瘍は縮まなかった。
「担当医から“長期間チョコレート嚢胞を保持していると、がんに進展する可能性もある”という話を聞き、手術を受けなければいけないことは理解しました。ですが当時、アスリートで同様の手術を受けた症例の情報があまりなかったため、復帰の道筋が描けなかった。どう判断すべきか非常に悩みました」