腹腔鏡による両側チョコレート嚢胞摘出術
そして、覚悟を決める。
「このままの状態でいても、人生にも競技にも影響する。まずは健康を優先しよう。治して、もう一回、競技に取り組もうと思い、腫瘍摘出手術を受ける決断をしました」
さらに、最初に痛みが出た左の卵巣だけでなく、右の卵巣にも嚢胞ができていることが判明。2009年11月、腹腔鏡による両側チョコレート嚢胞摘出術を受け、無事成功した。
「入院は10日間でしたが、腹部に力を込めてよいとされるまでに1か月ほどかかりました。また手術後半年ほどは痛みや不調が続き、思うような動きができない日々が続いて。自身で徐々にトレーニングを重ねて、完全に体調が戻るまでに半年かかりました。手術したからすぐに元気になれる、という単純なものではなく、できるだけ手術しなくて済むように、若いうちから対処するリテラシーをつけておくことが必要だったと痛感しました」
手術を乗り越え、35歳で現役引退するまで競技を続けることができたが、その道のりは決して平坦ではなかった。
そんな自身の経験から、現役のアスリートや学生、また同世代である更年期以降の女性にも、講義やセミナーを通じて「歯科医に行くような感覚で、婦人科も気軽に受診してほしい」と強く訴える。
「当時に比べると今はさまざまなことを簡単に知ることができる環境にあります。とはいえ、身体の中の状態までは、自分ではわかりませんよね。だからこそ、定期的に検診や診察を受けて、自分がいまどんな状態なのか、知っておくと安心かなと思います」
現在も婦人科に定期的に通い、検診を欠かさないという室伏さん。
「痛みなどのサインを見逃さないだけでなく“症状がないから大丈夫”と思わずに、常に予防の意識をもって自分の身体を守れるといいですね」
むろふし・ゆか●スポーツ健康科学博士。順天堂大学スポーツ健康科学部 先任准教授。2004年アテネオリンピック陸上競技女子ハンマー投げ出場。選手時代、慢性腰痛症や子宮内膜症などの健康課題と向き合う。研究領域はスポーツ医学、アンチ・ドーピング、スポーツ心理学、女性の健康課題など。
取材・文/當間優子 写真提供/(c)attainment