その一方で読者の反応が想像できず、世に出すことに恐怖も感じていたという。

いざ出版されると、私の耳に届く範囲では『面白かった』『一気に読み終えた』といった好意的な声が多かったのでひとまずホッとしています。本を読んで幻滅してしまった人は、何も言わずに離れてしまったのかもしれませんが……。ただ今は、自分の元から去られてしまっても、それも“読者の感想”だと捉えています

仕事がある日の前日も酒は飲まなくなった

 『ムクの祈り』は、彼自身の覚悟とともに生み出された一冊なのだ。以前は手放すことができなかった酒との関係にも、変化が訪れている。

今は、仕事がある日の前日も酒は飲まなくなりました。でも、先日取材を受けたときにミネラルウォーターのペットボトルをテーブルに置いていたら『もしかして、ペットボトル酒ですか?』なんて質問されてしまいました(笑)

「ペットボトル酒」は、図らずも彼の特徴のひとつとなってしまったようだ。ここで気になるのが“仕事の前は酒を飲まない”という言葉。聞けばタブレットさん、禁酒をしているわけではなく、休日の前夜は記憶をなくすほど酒を飲む夜もしばしば。

仕事前に酒を飲まなくなった分、中途半端に飲めなくなってしまったように思います。酒場やスナックの雰囲気が好きなので、家では飲みませんが、外で前後不覚になるまで飲んでしまうんです。ウーロンハイを“濃いめ”でオーダーして4〜5杯飲むころには記憶が曖昧。2軒目にスナックに入れば、無性に歌いたくなって1〜2曲歌うこともありますね

 スナックでは正体を明かさず、ひっそりと飲むのがタブレットさんの流儀。しかし、マイクを持つと店内にどよめきが起きる。同席した客としてはうらやましい限りだが「できれば歌手とバレたくない」と笑う。

プロだとバレてしまうと、お店は『稼いでいるはず』と勘違いして、勘定を少し高くされるんです。僕はお酒が飲めて少し歌えれば満足なので、やっぱりバレたくないですね(笑)

 何より“タブレット純”だと気づかれないほうが、面白い出来事に遭遇できるという。実際に旅先のスナックで予想もしない展開になることも……。

先日、長野での仕事を終えて同県の上田市を訪れました。地元の居酒屋で食事をしているときに『このへんにいいスナックはありますか?』とマスターに尋ねると『じゃあ行くか!』と言いながら店じまいを始めたんです