実は上田はスナック文化が花開いている町。市が販売している「ナイトパスポート」を購入すると、指定の店舗なら1時間2000円でドリンク1杯とカラオケ2曲が楽しめる町おこしを実施している。
好きなモノやコトに没頭できる環境に感謝
「マスターに聞かなければ『ナイトパスポート』の存在も知りませんでした。こうした巡り合わせは、僕の正体が知られていないからこそ起きたように思います。ただ、居酒屋には10分ほどしかいなかったので、もう少しゆっくり食事もしたかったですね」
かつてタブレットさんは、スナックからステージの依頼を受けて歌を披露し、糊口をしのいでいた。そうした過去も相まって、スナックには特別な感情を抱いているという。
「スナックは、お酒を飲む場としては決して安いわけではありません。とはいえ僕もかつてスナックにお世話になった身。“同志”でもあるので、お金を落とすことに悔いはないです」
6月には、そんな彼のライフワークともいうべき“純礼シリーズ”の新刊『タブレット純の青春歌謡 聖地純礼』(山中企画)が発売された。その名のとおり、タブレットさん自ら青春歌謡の史跡を巡礼し、感慨に耽る一冊だ。
「もともと、いろんなところへ探索に行くのが好きなんです。また、今でも風呂なしアパートに住んでいることもあり、銭湯巡りも大好きです。今でもガラケーですし、『不便じゃない?』と言われますが、情報がすぐ手に入ってしまうところとか、現代の便利すぎるからこそ起きるトラブルを回避できていると思っています。
図らずも、幼いころに憧れていた“歌謡曲研究家”のようなお仕事ができているのは、ありがたい限りです。今いる場所は、“自分の居場所”ではないかもしれません。ですが、流れてくる情報に振り回されることなく、自分で選んできた好きなモノやコトに没頭できる環境に感謝しています」
昭和歌謡を深く愛する芸人・タブレット純。彼は今夜も、ギターケースを背負いながら居場所を求めてトボトボ歩く。
たぶれっと・じゅん 1974年生まれ、神奈川県出身。幼少期よりAMラジオを通じて古い歌謡曲やムードコーラス、GSに目覚め、27歳のときにムードコーラスの大家・和田弘とマヒナスターズに「田渕純」の芸名で加入。その後改名し、ソロ歌手として活動しつつ、寄席、お笑いライブに進出。「ムード歌謡漫談」という新ジャンルを確立し、テレビ、ラジオなどでも活躍中。
取材・文/大貫未来(清談社) 撮影/渡邉智裕