そんな思いが舞台製作への興味につながっていく。所属事務所の後輩たちの面倒を見ながら、演出の助手も担うように。'09年、後輩たちが「劇団アクターズ・マップ」を結成すると、旗揚げ公演の『宇宙旅館』で芳本は演出家として新たな境地を開いた。
大阪芸術大学短期大学部教授に就任
「演出という仕事を通して、学ぶことがたくさんありました。それまで演じる側にいて、なんとなくわかった気になっていた演出家の言葉の意味や意図が、あらためて深く理解できるようになって、芝居全体を客観視する目が養われたように思います。おかげで台本を何度も書き直したり、目を酷使することが多くなって、40代前半で老眼鏡が手放せなくなりました(笑)」
自らの演技力を磨きながら、若手の育成にも力を注ぐひたむきな活動は、芸能界の外からも耳目を集める。'23年4月、芳本は大阪芸術大学短期大学部教授に就任。メディア・芸術学科の舞台芸術コースで「身体表現」の授業を受け持っている。
「先に大学で教えていた先輩の加納竜さんが、“やってみない?”という感じできっかけをつくってくれて。私が勉強してきたことが役に立つならチャレンジしてみようと」
40年前のアイドル時代を知らない学生たち。だが、「お父さんが大ファンでした!」と言われることもある。当時の映像をネットで見た教え子からは“みっちょん先生”と呼ばれるようにもなった、と芳本はうれしさを隠さない。
とはいえ、大学の授業は、劇団での演出とは勝手が違う。芝居は未経験の学生もいる。どうアプローチすれば、彼ら、彼女らの表現力を引き出せるか? ひたすら考え続ける日々だと苦悩を明かす。
「演出家の意図がわかれば、すぐに演技に結びつかなくても、自分で考えて表現できるようになっていく子もいるんです。だから、一人ひとりの技量や個性を見極めながら、伝える言葉を選ばないといけない。制作発表公演が近づくと週3日は大阪滞在です。授業が終わると疲れ切って抜け殻みたいになって、帰りの新幹線のホームにたどり着くとビールを開けます(笑)」
それは頑張った自分へのごほうび。芳本は、知る人ぞ知る“酒豪”である。'20年12月、51歳で開設したYouTubeチャンネル「みっちょんINポッシブル」では、演出なしの「今夜もはしご酒」企画など、“素顔のみっちょん”も配信している。
番組には多彩なゲストも招かれる。今年24歳になった一人娘の葵さんが応援に駆けつけることもあり、親子共演では“優しいママ”の姿も見せる。
「葵は一番近い同性で、“ママ”はこういう人、“みっちょん”はこういう人って、それぞれ理解してくれていると思います。で、みっちょんに対してはめちゃくちゃ厳しくて(笑)、的を射た批評をされたりすると、ちゃんと見ているんだなって思いますよね。
私が仕事に出ている間、娘の面倒を見てくれたのは私の母親でした。だから私も“ばぁば”になって、孫の世話をするのが楽しみなんですけれども、葵はマイペースなので、ばぁばになるのは当分先の話になりそうですね」
デビュー40周年のアニバーサリーライブでは、久しぶりに“歌手のみっちょん”としてステージに上がる。
「歌と振り付けの猛練習中ですけど(笑)、芝居をやるようになってから“自分の歌が変わった”って感じる瞬間が何度もあったんです。だから、今の自分がどんな世界を歌で表現できるのか─。ステージを見てくださるみなさんと一緒に、私自身も楽しみたいと思っています!」
取材・文/伴田 薫
『40th Anniversary LIVE!!! ID85』開催 '85年デビュー組の芳本、網浜、松本の3人が“あのころ”に戻ってステージに。10月9日、10日、東京の『座・高円寺2』にて。詳細はTEL:03-4500-0753(10時~19時)