「土ドラ」という枠

 ところでこの土曜23時40分から放送している「土ドラ」という枠は、フジテレビ系列の東海テレビが2016年4月から制作している。同社は1964年から2016年3月まで、52年間にわたり昼の帯ドラマを制作。『愛の嵐』や『真珠夫人』などのヒット作を生み出し、“ドロドロ愛憎劇”で世の主婦たちを魅了していた。だがやがて昼ドラが時勢に合わなくなり、惜しまれつつ終了。その代わりに制作を始めたのが土ドラだ。

 この枠では昼ドラのテイストを受け継いだ『ウツボカズラの夢』(17年・志田未来主演)や本格的な心理サスペンス『火の粉』(16年・ユースケ・サンタマリア主演)、ハートウォーミングな『パパがも一度恋をした』(20年・小澤征悦主演)など、多様な作風にチャレンジしてきた。

 中でも近年目につくのは、大地真央主演の『最高のオバハン 中島ハルコ』(21・22・25年)や、萬田久子主演の『グランマの憂鬱』(23年)など、ベテランを主人公に据えて、年配者がしなやかにたくましく生きる姿を描くドラマで、『中島ハルコ』は3シリーズも制作する人気作になっている。

 もう1作、記憶に残っているのが『その女、ジルバ』(21年)。しばらくテレビから遠ざかっていた池脇千鶴が、倉庫勤務の地味な中年女性が高齢者バーに居場所を見つけていく様子を等身大で演じ、若い頃の彼女を知る視聴者たちを驚かせたものだ。思えばこの作品でも、バーのママやホステスとして、草笛光子や草村礼子、中田喜子、久本雅美といったベテラン勢がいい味を出していた。

 「高齢者のしなやかな生き方」「庶民の小さな幸せ」がこの枠のキーワードになっており、『ラスボス』にはこれまでの作品で培ったノウハウが凝縮されている。だから観る人の胸に刺さるのだろう。

 後半戦のマツコおばあちゃんの活躍と共に、今後の土ドラ枠にも注目していきたい。

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。『3年B組金八先生卒業アルバム』『オフィシャルガイドブック相棒』『ヤンキー母校に帰るノベライズ』『IQサプリシリーズ』など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に『風景印ミュージアム』など。歴史散歩の会も主宰。