
“梅沢富美男がおばあちゃん役”と聞くと、それだけでドタバタ喜劇と決めつけてしまう人もいそうだが、そんな『浅草ラスボスおばあちゃん』が、予想以上に感動できると評判を呼んでいる。
梅沢といえばバラエティーでの毒舌キャラで知られるだけに、ドラマでも梅沢が啖呵を切って悪を懲らしめそうだが、実際のドラマはそう単純ではない。
梅沢富美男が演じる松子

梅沢が演じる松子は、75歳で職を失う。これまで20年間働いてきた定食屋が若者向けのカフェにリニューアルを決定。松子に辞めて欲しいけど言い出せない店主の気持ちを察して、「実は引き抜きの話が来てるんだよ。あたしゃ、浅草じゃ人気者だからね」と噓をついて自分から辞表を出すのだ。でも強がった裏で「私の方が経験も豊富だし、腕だっていいのにねえ」と落ち込む、何とも人間臭い人物だ。
住まいも、他の住人がいなくなった古いアパートに一人居残って暮らしていた。区の職員の礼(堀田茜)に、老朽化を理由に転居を勧められても「あんたたちはどうして古いものを壊したがるんだい。古いものには何の価値もないのかい?」と抵抗していたが、礼と接する中で次に進む気持ちになり、若者たちが暮らすシェアハウスへと引っ越す。
新しい仕事として便利屋を始めるが全く依頼は来ず、やっと電話がかかってきても、「ババアに頼むことなんてねえよ!」というイタズラ電話。それでも「興味は持ってくれたってことだね」と微笑む姿に、これまでの人生経験がにじむ。
ようやく礼の上司から、賓客のために老舗のカステラを手に入れる仕事を依頼され、「先代とは親しかったから、あたしが行けば何とかなるよ」と請け合ったものの、目の前で品切れとなり、仕事も失敗してしまう。だけど後日、賓客が求めていた本当のカステラに気づき、辛うじて挽回するのだ。
要は松子は、この手のドラマにありがちな“スーパーおばあちゃん”では全然なくて、高齢者ゆえに邪険にされたりしながらも、それを一部は受け止め、それでも今自分に出来ることを楽しんでいく。バーのオーナー・竹子(浅丘ルリ子)や土産物屋の先代・梅子(研ナオコ)との松竹梅トリオで繰り広げる軽妙なやり取りには笑わされる。「PL(損益計算書)はあるの?」と聞かれた松子が「PL学園」と勘違いしたり、笑いどころも満載だ。
そして松子が時折発する「ドラマや映画じゃさあ、ババアは毒舌で世の中をバッサリ斬るなんて言うけど、勝手なこと言ってんじゃねえよ」「ババアだってねえ、あたしゃ初めてババアやってんだよ」などのセリフにハッとさせられ、「ここもそろそろ潮時だねえ」と、一人で古いアパートの床をなでる姿に、これまでの人生を感じてジンとさせられる。こうした芝居は役者・梅沢富美男の本領発揮だ。「男の梅沢が女を演じている」とかの次元は最初から飛び越して一人のおばあちゃんになりきっていて、「この人ならこういう時に何て言うんだろう?」と、画面に引き込まれてしまうのだ。