「身勝手と呼ばれてもいい」
さらには、
「今までは誰かの期待に応えなきゃいけなかった、アイドルとしてキラキラなものになっとかなきゃいけなかった。虚像ですから、虚像。アイドルって偶像です。誰かの都合のいいものになっとかなきゃいけないんです。それはそうなんですけど、そんな人生も、もう飽きましたんで」
と、衝撃的ともとれる言葉が、安田の口から軽やかに放たれる。周囲がどよめく中、彼はあっけらかんと笑った。
「そのまま書いてください。突き抜けた先に、皆さんが望んでいる僕がいるので」
8年前に脳腫瘍と診断され、今でも手術の後遺症と向き合っている安田。昨年、40代に突入した。
「病気の経験をして、いろんな葛藤をしたり学びを得てきた中で、40歳は全部0にした再スタートみたいな感覚があって。見栄を張る必要がどこにあるのかってところにたどり着きました。
わからないものはわかりません、興味ないものは興味ありませんって言う。興味持ちたいものには関わらせてくれって言う。責任持てないものに対して、責任持とうとしない。それで世間に身勝手と呼ばれてもいいじゃないかって」
まるで一度生まれ変わったような心境の変化が、今の彼を突き動かしている。
「だって40年も生きてきたんですから、ちゃんとした知識云々はもう誰でも持っていますもん。その上で全部投げ捨てて、無防備で0歳から始めりゃいいんじゃないのって思うような感覚があります」
では、これからこうなりたいという理想像は?
「沖縄の離島の港にいた、名前も知らないおじいちゃんです。海に出航する時、おじいが地平線を眺めていて。“これから海に出るんだけど、気をつけることはない?”って話しかけたら、おじいがひと言だけ “海は広いさ”って言ったんですよ。ああ、こういうことやなって。
何かに固執した生き方や考え方をするのではなく、すべてを俯瞰して、海は広いということをそのまま言葉にできるすごさ。“海は広いさ”って、“いつか死ぬさ”と一緒やなあと思って。いつか死ぬのであれば、いろんなものをガードして生きることの無駄さに気づかされました」
ガードを捨て、身勝手に生きると決めた。この舞台に立っているのは、決して偶像ではない、“安田章大”そのものだ。
『アリババ』『愛の乞食』8月31日〜9月21日
世田谷パブリックシアター(福岡・大阪・愛知公演あり)
撮影/矢島泰輔 ヘアメイク/山崎陽子 スタイリスト/袴田能生(juice)