全国でクマの襲撃や食害が多発しているが、なぜ人間とクマとの境界線が、あやふやになってしまったのか。

人間が生活している集落にクマの生活圏が近づいている

 前出の山崎教授に聞くと、

「この数十年でヒグマもツキノワグマも、分布している範囲が拡大しています。さらに、多くの地域で数も増加しています。なぜ分布が広がったかというと、日本の人口が減少に転じ、過疎・高齢化が問題になっていることがあります。里山と呼ばれる場所では、人が森を利用して生活していたが、今は人がいなくなってしまいました。

 農業自体も行われなくなった。すると、日本は湿潤な気候なので、そういった場所は森が再生します。そうした森がどんどん増える過程で、人間が生活している集落にクマの生活圏が近づいているのです

 山崎教授は、クマから身を守るにはクマと遭遇しないための努力をすることが重要だという。

「クマは朝方や夕方の時間帯に活動的になります。集落周辺では夜間にも活動するので注意が必要です。クマの出没情報については、各市町村で情報を公開しています。警報が出ているときは、クマがいそうな場所を出歩かないことが重要です」

 北海道庁のホームページには、過去の被害の一覧が公開されている。どのような場所で、どのような人が被害に遭っているのか把握できるという。実際にクマと遭遇した場合、どうすればよいのか。

諸説ありますが、よく耳にする、目を合わせたまま後ずさりをするという方法は、私は不合理だと考えます。足元が不安定な場所ですし、転倒してしまう可能性があるからです。まだ襲われていない場合、とにかく動かないべきだと考えます。クマは動くものを追うからです。最悪、襲ってきた場合は、伏せて頭と首を守ることが重要です」(米田理事長、以下同)

 アウトドアメーカーなどでは、クマ除けグッズを販売している。クマ鈴はカバンなどにつけておくだけで効果を発揮するという。鈴の音が30メートル範囲に響くといい、人間がいることをクマに知らせることができるからだ。

クマ撃退用のスプレーは、最終手段として有効です。私も実際に使用したときは、90度方向転換して、クマは逃げていきました。もともとアメリカの製品なのですが、やっと国産が流通し始めました。価格が1万円を超えるため高価ではありますが、大いにすすめています

 観光地では、人間がクマにエサを与える事案が増えているという。エサを与えてしまうと、食べ物を求めて再び同じ場所に現れてしまい、人に慣れてしまうという。

観光客の中には、エサを与えるだけでなく、なるべく近づいて写真を撮ろうとする人たちも増えています。クマは野生動物なので、状況によってどういう行動に出るかわからない。距離を置いて、そっと見る程度にとどめるべきだと考えます」(山崎教授)

 本来は臆病な性格といわれているクマ。私たちの間違った行動が、さらに事故を増やしてしまうかもしれない。