怖いのは当たり前目標達成で不安解消
手術が成功しても、再発の怖さは常につきまとう。
「ちょっとした風邪の症状でも、がんが悪さをしているんじゃないかと考えてしまうし、検査のストレスも大きい。検査日が近づいてくると、緊張感が高まるんです」
しかし、それらの恐怖もあえて否定することはないと続ける。
「患者からすると、がんのことを忘れろと言われても、絶対に忘れることはできません。ならば、がん克服のために少しでもプラスになることをしてほしい。それが自分を支えることになりますから。例えば、食事や運動で小さな目標を立てる。私なら、カルシウムの数値を上げるために、意識してヨーグルトを食べるとか。運動も大事ですから、ウォーキングやスクワットをやるのもいいですね。自分なりの前向きな目標があれば、不安をやわらげることができるでしょう」
そして、治療を続ける中で痛みが出たら、絶対に我慢しないでほしいと念を押す。
「痛みを我慢してもいいことは一つもありません。楽しいこともできなくなりますし、仕事にも集中できなくなります。結果的に治療がうまくいかなくなる可能性もありますから、つらさは我慢せず、緩和ケアを受けてほしいですね。緩和ケアは末期がん患者だけでなく、すべてのがん患者に必要なものなんです」
がんになったことで、漠然としていた「死」が身近になったという廣橋先生。人生が残り1年なら、どうやって生きようかと具体的に思い浮かべるようになったそう。
「私の場合、がんによって仕事のやりがいが、より強まりました。病院でも在宅でも、患者さんたちがよかったと思える過ごし方ができたら、本当にうれしい。同時に世の中にも、がん患者の思いを発信していきたいですね」
お話を伺ったのは廣橋 猛先生
東海大学医学部医学科卒業。亀田総合病院疼痛・緩和ケア科在宅医療部、三井記念病院緩和ケア科に勤務後、'14年から現職の永寿総合病院のがん診療支援・緩和ケアセンター長に。在宅医療にも携わり、病棟と在宅の2拠点で緩和医療を実践する「二刀流」医師。
<取材・文/池田純子>