大会に向けた練習だけでなく、日々、さまざまな激務に追われている。そんな中、母としての複雑な思いも胸の奥であった。

80代まで挑戦は続けたい

出産直後から(出産前から)、国際スポーツ組織の委員や理事をさせていただいたのですが、娘の誕生日に留守にしたり保護者会など行けないことが多くて。罪悪感も絶えずあり、涙をこらえた日もありました

東京アクアティクスセンターにて。8月11日にはシンガポール大会の混合チームテクニカルルーティンの演技も披露 写真提供/スポーツビズ
東京アクアティクスセンターにて。8月11日にはシンガポール大会の混合チームテクニカルルーティンの演技も披露 写真提供/スポーツビズ
【写真】還暦前とは思えない…小谷さんの混合デュエットの演技が素晴らしい

 日々を上手にやりくりするため、小谷さんはオンオフをしっかり分けるようにしている。

仕事は極力、家に持ち込まないようにしています。夜、車で帰宅して、車庫の中で、メールの処理や頭の切り替えをしてから家に入るようにしています

 車庫という小さな空間が、彼女にとって職業人の顔と母親の顔を切り替える大切な場所になっているのだ。

スマホのメモ機能や付箋を使って、何かひらめいたり、頭の中で仕事の整理ができたら、その都度、車を道路脇に止めて、メモするなどしています

 身体づくりについて聞くと、意外なエピソードが。

空腹を紛らわせるのは“柿ピー”でした。車中で柿ピーとバウムクーヘンを食べながら帰宅したり(笑)。東京都ASマスターズルーティン大会の前も3日間、柿ピー生活でした

 しっかりリフレッシュする時間を確保することも意識しているそう。

時間があれば、サウナやマッサージ、日々のストレッチをしています。ストレッチは首や腰、お尻、アキレス腱など全身やっています

 今後、“現役”をいつまで続けたいと考えているのだろうか。

80代でアーティスティックスイミングの現役の方もいるんです。次回の世界マスターズから60歳のカテゴリーに上がりますが、その後も70代、そして、80代と挑戦は続けたいし金メダルを獲り続けたいです

 小谷さんは今大会で「改めて自分が幸せだと感じられた」と振り返る。最終日の混合デュエットフリールーティンでは満足のいく演技ができ、結果として81・4750点で80点を超える高得点を記録。締めくくりも最高のものとなった。

蓄えた知恵や発想を生かせるのが50代であり、人生最も楽しくなると。目標があれば50代からでもまだまだ成長し進化できるということを声を大にして言いたいです。“人生50代から”!!

 59歳で新たな分野に挑戦する姿勢は、「遅すぎる」ことなどないと教えてくれた。

こたに・みかこ 1988年ソウル五輪シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)銅メダリスト、初の女性旗手を務める。五輪・教育関連の数々の要職に就く。世界大会のリポーター、東京2020招致アンバサダーも務め、自身がコーチを務めるクラブでは後進の育成に尽力している。