「『あんぱん』はのぶの物語」

 もちろん、台本や演出によって与えられるものはある。しかしながら、

「それをただやるんじゃなくて。自分の頭でちゃんと考えて、納得したうえでやりたい。しかも『あんぱん』は1年という長い期間ですし。最終的にはたぶん、人間関係。きっと、人との日々の会話の中で生み出していく作業になる気がしていました。

 とにかく、いろんな人と、作品の話じゃなくても、“今日、雨すごいらしいよ”とか、そういう何でもない会話を。距離感を生んではいけないと、ずっと前室にいました」

 空き時間に楽屋に戻ることは一度もなかったという。前室に行けば北村がいる。自然と今田美桜が加わり、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、妻夫木聡……。キャストたちが前室に和気あいあいと集い始めた。

「僕がやったことはきっと間違いではなかったと最近、思っています。この物語をどうやって終えるかについても、今田さんや監督さんとたくさん話し合いましたし。『あんぱん』は誰が何と言おうと、のぶの物語。

 のぶをずっと見守り続けるのが、柳井嵩の役目だと思っていて。だから、いろんな案を出させていただきました。僕は本当にこの終わり方がベストだと思っています」

 と、とても誇らしげに語った北村。さらに取材に集まった記者たちに向かって、

「本当にみなさんもお疲れさまでした。素敵な記事をたくさんありがとうございます」

 と、労ってくれた。その丁寧さや誠実さが、説得力と愛され力にあふれた嵩をつくり上げた─。

絵が好きでよかった

 嵩による絵や漫画は、監修の指導のもと北村が自ら描いていた。

「小学生のときに絵画教室に通っていて。今回、心底、あのとき絵を好きになってよかったと思いました。撮影期間中は、オールアップ(撮影終了)した方の似顔絵を描いたり。常に、何かを描いていたような気がします。

 今回、改めて絵がすごく好きになりました。一度も苦じゃなかったし、楽しかったです。待ち時間で暇を極めたときには、共演者のみんなを巻き込んで“絵しりとり”をしたり(笑)。本当に楽しかったです、絵を描くということは」