朝ドラ『あんぱん』より 写真提供/NHK
朝ドラ『あんぱん』より 写真提供/NHK
【写真】クランクアップで号泣したのは今田美桜ではなく…

 演じた今田美桜についても聞いてみた。

本当に素晴らしい座長でした。朝ドラのヒロインは、ものすごい量のセリフを覚えなくてはならなくて、きっと楽屋で休みたいはずなのに、スタッフやキャストが待機している前室にずっといました。気持ちも身体もすごくタフで、気分が優れない様子なんて見たこともありませんでした。陰では悩んだり泣いたりしたこともあったと聞きましたが、そんなのは一切見せず、みんなを気遣っていました」

 特に戦時中のシーンでは、苦しい表情も見せていた。

完全にヒール役というか、嫌われ者ですよね。豪ちゃんの戦死は立派なことだと言うわけですから。当時は当たり前でも、あの精神を現代の若い人が何週間も持ち続けるのは苦しかったと思います。河合優実さん演じる蘭子の涙はもちろん素晴らしかったけれど、あのシーンの今田さんは本当に頑張ったと思う。もう勲章あげたいくらいです!

母親の演技が光った松嶋菜々子

 そして、最も印象的なキャラの一人が、松嶋菜々子演じる嵩(北村匠海)の母・登美子だ。

「私、『やまとなでしこ』のときに、松嶋さんに身もふたもないひどいセリフを言わせたんです。『借金まみれのハンサム男と裕福な豚男、どっちが女を幸せにしてくれると思いますか』とか。それをあんなにかわいらしく上品に演じてくださった。松嶋さんには絶大な信頼があります。今回も、よい母親でいようと取り繕わない女性の役をお引き受けくださいました」

 息子の嵩が出征するシーンで、登美子は「生きて帰ってらっしゃい」と人目をはばからずに言い放ち、視聴者の涙を誘った。

「『ひどいお母さんだと思っていたけど、やっぱりお母さんですね』と、あそこで皆さん許してくれたようでした。ただ、戦後になるとまた、就職に口を出したり、百貨店を辞めるときはブチギレたり、漫画家になるなら御殿を建てろと言ってみたり。だけど、母親って誰でも、息子には安定した仕事についてほしいはずだし、自分の息子が医者になってくれたら、誇らしいはず。そういう母親のエゴを言わせてみたら、『正直でいい』と、大人気に。やっぱりみんなそう思ってるんじゃない!って。でも、これも松嶋さんあってのことですね」