ワンオペ育児で迎えた限界……

 不思議な体験はそれだけではなかった。生後2か月の娘を連れて母子の集いに参加すると、他の母親との会話が成り立たなかったという。

「全然わからないアラビア語とか聞くと、右から左に流れていくじゃないですか。そんな感じで、みんなが何を言っているのかわからなくて、衝撃でしたね。たぶん、家に赤ちゃんと2人きりの日々で大人と全然会話していなかったからだと思います。

 当時は自分が精神的に追い詰められているという認識もなかったので、リハビリ代わりに友人と会話しているうちに、徐々に回復していきましたが」

 娘が8か月のときに保育園に預けて復職した。朝10時に出社して、午後3時半に帰る時短勤務。「母親になるとダメだ」と言われるのが嫌で、与えられた仕事を懸命にこなした。だが、復帰から1年後に管理職になったころから、「うまくいかないな」と思うことが増えたそうだ。

「仕事は面白かったけど、朝はドタバタだし、帰宅後はお世話するのに精いっぱいで、取り込んだ洗濯物は山積みだし。寝かしつけたら終わってない仕事もしたいのに、娘はちょっと神経質なところがあり、とにかく寝なくて。

 毎晩寝かしつけに1時間くらいかかっていたので、『早く、寝るッ!!』って(笑)。叱っても無理なんですけどね」

 マミさんが1人で悪戦苦闘している間、夫は子どもが生まれる前と変わらずに仕事をして、順調にキャリアを重ねていく。夫とは同じ大学の同級生で、就職しても力の差は出ないだろうと思って働いてきたのだが、現実にはマミさんと夫のキャリアは差が開いていくばかり……。

「あなたが仕事できるのは、私がこういう働き方で、家事をしているからでしょ!! 最初は折に触れてそういう話をしてケンカもしたけど、夫は全然変わらないので、だんだん言う気もうせて。

 例えば、忘年会のときや残業したいときなど、夫に保育園に迎えに行ってほしいなと思ったけど、それも全然無理で。そのうちハードルが低くなっていって、最後のほうは彼がやる仕事は、お風呂洗いとゴミ捨てと朝の保育園の送りだけ。

 私はそれでもう満足できるようになってしまって(笑)。いや、1回だけお迎えしてもらったことがありましたね。その日は楽しかったことをよく覚えています(笑)」