「肩の荷が下りた」きっかけ

 イスラエルの社会学者が書いた『母親になって後悔してる』を読んだのは、しんどさがピークのころだ。読み終わった直後は心が引っ張られて、さらに落ち込んだという。

「自分も本に出てくる人たちと同じ。子どものことをかわいがれないダメなやつなんだ。そんな人が子どもを産んで申し訳ないと」

 本はいわば劇薬ではあったが、しばらくすると、じわじわと効いてきた。マミさんはもともと理性的で前向きな人なのだろう。子どもたちへの愛情を再確認して、「この子たちの母になったことは後悔していない。何度生まれ変わっても、もう一度この子たちを産む」と言い切る。

「子どもはすごくいい子なんです。子どもには何の罪もなくて、ただ、自分の接し方が悪かっただけ。私の問題なんです。子どもを産んだら完全に母という役割に移行して、自分が劇的に変わらなきゃいけないと思っていたんです。

 でも、そうじゃなくて、本の著者が言うように、子どもを尊重しながら単純に関わる。母親として関わる人でいいんだと思ったら、ちょっと肩の荷が下りた気がします」

 夕方にイライラがひどくなるのは食事の支度に時間がかかることが原因だと思い、準備に取りかかる時間を早くしたり、本当にダメなときはデリバリーに切り替えたり。時には家の中にこもるのをやめて外に出るようにしたら、気持ちにだいぶ余裕ができたそうだ。

 マミさんは自分の好きなことをする時間も取りつつ、子どもの声にも耳を傾けるようになった。子どもに話しかけられて「邪魔された」と思うのではなく、「子どもと向き合った」と解釈を変えるようにもしたという。

 ベトナムに来て、夫の仕事のペースはむしろ上がった。日本から出張者が来るとアテンドしなければならず、休日出勤も増えた。

 育児中の仕事への向き合い方に関しては、まだ解答が出ていないと話す。

「子どもが小さいときは会社や社会全体が、もっと男性にも育児参加を促してくれたらいいのにとずっと思っていました。そうすれば女性も仕事できるし。でも、夫の姿を見ていて、思いきり仕事をしたいときは、やっぱり仕事の絶対量を増やさなきゃいけないんじゃないかなと思うようにもなりました。

 家事育児を男女半々にしたら、両方とも仕事量は減ってしまって、どっちのキャリアも中途半端になる気がします。どちらがいいのか、ちょっと答えが出ない状況ですね」