まずは進んでみることが大切

 中年期以降になると、仕事には責任が生じ、同居する家族の世話に日々追われ、ふと気づけば自分のことは後回し。自分が本当に好きなもの、大切にしたいものは何だったのか。いつしか自分の価値基準を見失い、突き詰めようとしてもわからない。

「多くの人が頭の中だけで抽象的に考えているんです。そこでおすすめは、これまでの人生の浮き沈みをグラフに書いてみるという方法。幸せだった時期、低迷していた時期と、今までの日々を振り返ってみる。

 そこで、自分はみんなと一緒に何かをするのが好きだったなとか、こういう時間が好きだったなと、自分の方向性が浮き彫りになる。価値判断のヒントが見えてくるかもしれません」

 自分の価値判断基準がわかれば、ゴールも見え、選択肢もおのずと絞られる。それでも、いざ決める段階になって、本当に良いのだろうか、と迷ったら?

「完璧を求めすぎないこと。決断を放棄して現状を維持していれば、確かに失敗することはないかもしれません。でも、その代わりに本来だったら出会えたかもしれない人や職場、経験や成長、そうした可能性を手放してしまうんです。

“機会損失”という言葉がありますが、決めないという選択はもうそれだけで損失になることも。決断し、まず進んでみることが大切です」

お話を伺ったのは─中島 美鈴さん
臨床心理士・公認心理師。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学、福岡大学などの勤務を経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて学術協力研究員。心理学博士(九州大学)で、ADHDの認知行動療法と時間管理を専門とする。
『マンガで挑戦 とっちらかった頭の中を整理して決められる人になる』(主婦の友社)

取材・文/小野寺悦子