不妊治療は「すべての決断を自分が腹をくくってするしかない」と住吉さんは言う。
精神的に逃げ場がないつらさが
「例えば、医師に“もう無理です”と言われれば、落ち込みはするけど諦めがつくじゃないですか。その言葉が欲しくて聞くんだけど、“科学的には無理とは言い切れない”と。可能性がゼロにならないと無理と言えないのは確かにそのとおりなのかもしれません。
だから自分が人生の選択として決めなきゃいけない。そして、決めてからも“あの決断は正しかったのか”と悩んだりして、精神的に逃げ場がないつらさがありました」
そんな日々の中、住吉さんが参考にしようと見ていたのが同じ境遇の人たちのブログ。
「みなさんがどういう決断をしていたのかと、いろいろ探して読んでいました。でも、やっぱり途中で止まってしまうブログが多くて。すごく傷ついて治療をやめる方もいると思うので、そこまで書けるわけないですよね。なので、詳細に自分の経験を書いたら、昔の私のような人たちの相談相手みたいな本になれるんじゃないかと思いました」
当時、ドラマや映画で描かれる不妊治療に「もっと大変」「こんな生ぬるくない」と感じていた住吉さん。自身が書く際には表面的なことではなく、当事者が「ひとりじゃなかった」と思えるものでないと意味がないと考えていた。
そのためクリニックで渡される書類なども、全部取っておいたという。4年間、不妊治療と必死に向き合い、最後はやめることを決意。今回の執筆で、赤ちゃんへの未練がよみがえり、苦しくなることはなかったのだろうか。
「自分の中で段階を経て整理をつけてきたので、自分は今の暮らしでよかった、と思えています。ただ、書きながら当時を思い出して涙が出てくることはありましたね。気持ちの変遷を棚卸しできたことで、ようやく本当に終止符を打てた気がします」
住吉さんが読んでいたブログは途中までだったが、この本では結末、さらにその後まで読むことができる。
「不妊治療サバイバーじゃないですけど(笑)、“意外にあの人元気に生きてる。だから私も大丈夫”と思ってもらえたら、本当にうれしいです」
この経験を経て、得たものも多いという。
「夫と一緒に困難を乗り越えてきたので、夫婦の絆はすごく深まりました。そして、あそこまで頑張ったんだから後悔はない、と思えること。“こうしていれば違ったかも”と悩むことも多々ありましたが、正解は誰にもわからないんですよね。これでよかったんだと思って生きていくしかない。
不妊治療だけでなく、恋愛や結婚、仕事など、さまざまな場面でみなさん迷ったり、悩まれると思うんですが、この本が何かの助けになれたらいいなと思ってます」
取材・文/今井ひとみ












