NHK「よるドラ」の変遷

 ロマンチックで夢見る高校生にふさわしいし、高校生が夜間に活動できる大義名分もある特別な部だ。夏クールの『僕達はまだその星の校則を知らない』でも天文部が舞台になっていて、こういう時間を共有すれば恋も生まれるだろう、筆者も天文部に入れば良かったなと、天体に何の興味も無いのに思ったものだ。

 いや、でも、『いつか、無重力の宙で』の場合は、男子部員がおらず女子4人だけだったがゆえに、宇宙への思いがより純化されて、胸を打つ気がする。

 本作を放送している枠は、国民的人気枠の「朝ドラ」に対して「夜ドラ」といい、月曜から木曜の22時45分~23時00分に帯で、2022年度から放送している。その前身は2018~21年度に毎週土曜や月曜に30分枠で放送していた「よるドラ」だった。

 どちらも若者世代がターゲットで、「よるドラ」時代は『腐女子、うっかりゲイに告る。』(19年・金子大地主演)や『だから私は推しました』(19年・桜井ユキ主演)など、ジェンダーや推しといった、当時では目新しい題材を次々と取り上げ、「NHKが攻めている」と話題にもなった。

 しかし次第に、枠のカラーが失われてゆき、「夜ドラ」になってからは蒔田彩珠、高石あかりが出演した『わたしの一番最悪なともだち』(23年)や窪塚愛流主演の『あおぞらビール』(25年)など、若手起用枠の役割はあるものの、「藤子・F・不二雄 SF短編ドラマ」を飛び飛びに放送したり、丸山礼主演の『ワタシってサバサバしてるから』(23・25年)を放送したりと、一貫性は感じられなくなっていた。

 そこに現れたのが、『いつか、無重力の宙で』だ。私はこのドラマには、今年、火曜の「ドラマ10」で放送した『しあわせは食べて寝て待て』(桜井ユキ主演)や『舟を編む』(池田エライザ主演)に似た視聴感を抱いた。

 ごく普通の頑張っている女性が、日々の暮らしの中で、小さな幸せを実感できるドラマで、22時台は若者よりも、今日も一日頑張って仕事や家事をこなした女性が、自分へのご褒美となるようなドラマを観て、ホッとしたい時間帯なのかもしれない。『しあわせは~』や『舟を編む』を観ていた視聴者が、『いつ宙』にスライドしてきているようで、こうした作品は今の時代に確実に需要があると思うのだ。

『いつ宙』は10月27~30日放送の第8週で最終回を迎える。

 多くの大人は同級生と再会しても、日常にちょっとした彩りが加わる程度で、昔の夢を再び追い求めることまでは、なかなか出来ない。それを実行に移した彼女たちにどんな未来が待っているのか、ぜひ見届けたい。

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。『3年B組金八先生卒業アルバム』『オフィシャルガイドブック相棒』『ヤンキー母校に帰るノベライズ』『IQサプリシリーズ』など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に『風景印ミュージアム』など。歴史散歩の会も主宰している。