妻、母、娘にも共有したい後悔の念

 サトルさんは独身時代からテニス、ゲーム、ピアノなど多趣味だったが、子どもが生まれてからは自分の時間を捻出するのが難しくなった。何とか時間をつくるべく、サトルさんが取った行動はかなり思い切ったものだった。

「わりとたくさん持っていた洋服はすべて処分してジーンズと白シャツのシンプルなスタイルに変えました。組み合わせに迷う時間がもったいないので。髪を切りに行くのも面倒くさくなって、去年、初めて丸刈りにして自分で剃るようにもなりました」

 読書も好きだが、今は本当に読みたい本だけを厳選している。イスラエルの社会学者が書いた『母親になって後悔してる』を購入したのは、SNSでタイトルを見て興味が湧いたからだという。

「僕はよくイクメンと言われるので、この本を男性視点で読んだらどうなるのかなと。買ってリビングに置いておいたら、妻から『実は私も気になっていたけど、タイトルにビビって手に取れなかった』と言われました」

 サトルさんは本を読んで痛感したことがある。母親になることへの周囲からの期待やさまざまなプレッシャーは古今東西、どこにでもあるのだという点だ。

「それは僕が父親になってみて、周囲から感じるプレッシャーと同じでもあります。保育園の面談で先生に『すごくイクメンですね』と言われましたが、一度そう言われると、イクメンであり続けないといけないような錯覚にとらわれてしまう。逆に、イクメンじゃないと言われると、父親失格の烙印を押されたような気がしますよね」

 自分の父親の時代に比べれば、今の父親が子どもに関わる時間は全体的に増えているため、特に「イクメン」とラベリングしなくてもいいというのがサトルさんの持論だ。

「育児は男女関係なく、子どもがいれば当たり前にやることでしかないと思いますね」

 実は、サトルさんの育った家庭は、今のサトルさん夫婦とは対照的だ。広告会社勤務の父親は徹夜も土日出勤も多かった。IT会社に勤めていた母親は23歳で一人息子を出産。ほぼワンオペで育ててくれたが、サトルさんが中学生のころ会社を辞めて専業主婦になった。

「何かを途中でやめるのは子ども心によくないと感じましたが、理由は聞けなかったです。母にこの本を渡したら『中身が重すぎて、ちょっとずつしか読めない』と言っていたので、もう少し育児が落ち着いたら、母が後悔していないか聞いてみたいですね」