「寒くなったから冬眠」するわけではない
青梅市では、住宅地や通学路に近い場所でもクマの目撃情報がある。市教育委員会は市内の全小・中学校の児童・生徒に「クマ鈴」の配布を決定。市民はどのような気持ちで生活しているのか、現地を訪ねた。
「奥多摩に近いエリアに家がある人はポケットにクマ鈴を入れて持ち歩き、自宅周辺では取り出して鳴らすと話していました。私? 山には行かないのでクマ鈴は持っていません。みんなが安心して暮らせるようにクマは早く冬眠してほしいですね」(60代の自営業男性)
ハイキングコースの一部はクマ出没のため通行止めになった。近くで犬の散歩をしていた30代の女性会社員は「犬を散歩させる人が減って寂しくなりましたね。でも、散歩させないわけにもいきませんし、クマに出合わないことを祈っています」と困り顔。
70代の女性は日課とする40分の散歩コースを変更した。コース近くでクマが出没したためで、娘から「山の散歩はやめて! クマに追いかけられたら逃げきれないんだから」と約束させられた。
「市街地散歩に切り替えました。青梅市はどこを歩いても景色はいいんですよ。昔からクマは山にいます。イノシシやシカは畑の作物を食い荒らしますが、クマは人里に下りてきませんでした。知人女性が“木の実をたくさん置いてお腹いっぱい食べさせて冬眠に誘導したら?”と話したら、仲間からは“ダメよ、クマがたくさん集まってきちゃう”と言われたそうです。どうやって冬眠を確認すればいいんでしょうね」(同・70代女性)
クマの生態に詳しい森林総合研究所・東北支所の動物生態遺伝チーム長を務める大西尚樹さんはこう話す。
「山の中のクマは冬眠を始めています。例えば秋田県のデータで出没数はかなり減ってきました。クマは雪が降ったり寒くなったから冬眠するのではなく、基本的にエサがなくなると冬眠するのです。今年のようにエサが少ない年は早く冬眠に入ります。町に出てくる個体は“いいエサ場”を見つけているから出てきていると考えられます。この時季は主に柿などでしょう。クマのエサになりそうなものは早めに撤去しましょう」
人間は寒くなってくると暖かい布団が恋しくなるが、クマはそうではないようだ。市民たちの切なる願いが届くのはいつか─。









