名題下は、普通は立ち回りや腰元の役でセリフがないのは当たり前。数年してようやく二言、三言セリフが言えるようになって、名前のつく役がもらえる。
どちらの立場にも苦しみや葛藤がある
「あくまで御曹司の演じる主役に花を添え、際立たせるのが仕事。だから彼らにとってセリフが一言削られたとか、出番が同期より多いとか少ないとかがいちばんの悩みの種ですね」
一方で、血筋のある御曹司たちの苦悩にも心を寄せる。
「望んでそういう家に生まれてきたわけでもないのに、3、4歳で歌舞伎役者になるかの決断を迫られる。先祖の名前に傷をつけてはダメだし、子どものころから稽古をして名前にふさわしい芸を身につけ、重い責任を負わなくてはならない。どちらの立場にも苦しみや葛藤があって、皆がそれを背負いながら歌舞伎という世界が成り立っているんです」
『国宝』を冷静に分析しつつ、「内」にいた人間だからこそわかるこんな指摘も。
「本当によくできた映画だけど、少しだけ言わせてもらうなら(笑)、喜久雄君が中村鴈治郎さん演じる吾妻千五郎さんに『○○屋のおじさん』と呼びかけるでしょう。弟子筋はああいう呼び方はしません。
あとね、『二人道成寺』まで踊った御曹司が、歌舞伎をやめて地方の芝居小屋を回るとかもないでしょ、って思います。でもエンタメとしての演出だと楽しんで見ました」
雪之丞さん自身も師匠に入門し、のちに部屋子となり、異例の抜擢を経て、主役の座も射止めている。原作の小説では、喜久雄は紆余曲折を経て新派に移るが、そういった点も似た境遇だ。
「たしかに任侠の血が流れているとか、大部屋から部屋子になり次第に抜擢されて主役にとか、共通してる部分は多いなと思いますね。でも私は師匠との出会いがあって、師匠が私を抜擢してくれたということに尽きるんです。これは例外中の例外といえるでしょう」
現在は新派を拠点として活躍する雪之丞さんだが、歌舞伎の舞台と完全に離れたわけではない。最近も人気ゲームを原案とした新作歌舞伎『歌舞伎 刀剣乱舞』で、艶やかな立ち居振る舞いを披露した。
「私は師匠の後押しもあって、歌舞伎から新派に移籍しました。歌舞伎が『国宝』効果で人気が出ているようだから、新派も見ていただきたいですね」











