一つひとつ実例を重ね、道を切り開いてきた。口コミで施術が評判を呼び、現在はフリーの看護師として活躍。病院やクリニックなど9つの医療機関と提携し、年間約150人の患者に施術を行っている。

心のケアのほうが大きい

「ブレストアートメイク」は彼女が名づけた、いわば商標で、ブレスト(胸)とアートメイクを合わせた造語。日本では主に「医療タトゥー」と呼ばれてきた。

でもタトゥーという言葉は日本ではあまりいい印象がないですよね。乳房を切除した患者さんが、『乳輪を作りたいならタトゥーという選択肢もあるよ』と誰かから言われても、そこが壁になってしまうかもしれない。ブレストアートメイクという言葉を使うことで、入りやすくなり、またそこから広まっていったら、という気持ちがありました

人工皮膚でブレストアートメイクの練習をする岩元さん 写真提供/岩元淑子さん
人工皮膚でブレストアートメイクの練習をする岩元さん 写真提供/岩元淑子さん
【写真】SNSではアダルト警告で「ハードルしかない」ブレストアートメイク

 ブレストアートメイクにはいくつかの種類がある。突起がない乳頭に色の濃淡で乳輪・乳頭があるように見せる3Dアートメイクに、乳頭移植をして乳頭突起を設けた胸に行う乳輪アートメイク、皮膚移植後に色が薄くなった乳輪に行うアートメイクと、患者のケースによってさまざまだ。

ブレストアートメイクは外見の施術ではあるけれど、それにより患者さんの気持ちも変わってきます。むしろ心のケアのほうが大きいですね

 岩元さんが大切にしているのが、施術前のカウンセリング。約1時間かけ、患者が何を求めているのか、アートメイクを選んだ動機を聞き出し、最適な方法を共に導き出していく。

 デメリットも伝える必要がある。ブレストアートメイクは皮膚の浅い位置に色素を定着させるため、徐々に退色していき、色を保つためにはメンテナンスが欠かせない。施術は2〜3回行い、自由診療となるため1回ごとに5万円前後の料金が発生する。

そこでアートメイクをやる、やらないはもちろん自由。ただブレストアートメイクを知る人はまだまだ少なく、選択肢の一つとして受け止めてもらえたら

 これまで施術してきた患者は20代〜80代。温泉に行きたい、家族を驚かせたくない、孫とお風呂に入りたい─、など施術を希望する理由はさまざまだ。

忘れられないのが、乳がんで乳輪を失った、鏡に映る自分の姿を見ることができず、家にあるすべての鏡にテープを貼って自分が映らないようにしていた女性。ブレストアートメイクの施術をしたら、鏡のテープを取って、元どおりの生活が送れるようになったということです

 胸のアートメイクを手がける施術者はまだ少なく、育成機関も限られている。後進を育てるべく、2023年に「ブレストアートメイクスクール寺子屋」を設立。看護師や医師など医療従事者を対象に講習会を開き、医療アートメイクの技術とケアを教えている。

技術はもちろん、私が生徒さんに一番伝えたいのは、施術者が主にならない、ということ。施術をしていると、もっと美しくしたい、もっとリアルにしたい、もっと色を重ねたいと思ってしまいがち。それも大事ではあるけれど、患者さんが満足していたらあえてそこで終了する。患者さんの気持ちを大切にする、ということ