上昇気流に乗って一気に「本屋大賞」を

 やがて転機が訪れる。2015年に発表した『鎌倉香房メモリーズ』だ。

「ある意味、肩の力を抜いて書けたところがあったかもしれません。“これで最後になってもいいから好きなように書こう”と。そうしたら読んだ方がよかったって言ってくださって、それなりに数字(部数)も出て、シリーズ化しましょうって言われて“え、何も考えてない!”って(笑)」

 続編を含め全5巻のシリーズとなり、さらには車いすテニスを描いた『パラ・スター』が「本の雑誌が選ぶ2020年度文庫ベストテン」の第1位に輝くなど快進撃が続く。

 そんな中で第22回本屋大賞を受賞したのが『カフネ』だ。弟の急死、夫との離婚などで失意のうちにいた41歳の薫子が、弟の元恋人である料理人・せつなと出会い、家事代行サービス会社「カフネ」の活動を通じて心を通わせ、共に再生していく物語。発想の原点になったのは?

「亡くなった男性を取り巻く2人の女性が主人公になるということだけは決めていました。最初は2人が古いワゴン車に乗って、全国津々浦々、依頼者のもとを回って歩くロードムービー的な話を考えていたんですが、コロナ禍が始まって人に会いに行くっていうことができなくなったんですよね。

 自分たちの生活って本当にもろいんだなっていうのを感じて……。生活に行き詰まっている人たちに、何かをする話っていうふうに変化して、料理や家事代行の話になりました」

 そうして生み出された作品が多くの人々の共感を呼び、これまでで最高の栄誉を得た。

「やっぱり賞をいただいてから声をかけていただく機会も増えたし、状況は変わっていると感じます。ただ自分自身がまったく変わっていない。ポテンシャルも変わらないし、できることも今までと同じなので」