近所に住む50代主婦が異変に気づいたときは、すでに火の手が住宅をのみ込み始め、木造家屋はあっという間に火の餌食になっていったという。
「朝5時半過ぎ、パチパチと薪を燃やすような音で目覚めました。外を見たら黒煙が上がり、真っ赤な炎が屋根を突き抜け5メートルほどのび、消防の人が”一般の人はこれ以上近づかないで! ”と必死でした」
茨城県警那珂署と那珂市消防本部によると、先月27日午前5時30分ごろ、同市戸崎の叶野善信さん(82)宅から出火し、木造平屋建て住宅142平方メートルと木造の物置91平方メートルが全焼。
焼け跡から3人の遺体が見つかった。3遺体は火災後、連絡がつかない善信さんと妻の美津子さん(80)、下の孫娘の美希さん(15)とみられている。同居していた長女(48)は自力で脱出して難を逃れ、上の孫娘(18)は外出中で無事だった。
同署は、「司法解剖の結果は3人とも一酸化炭素中毒です。ただ、遺体は顔や身体の特徴で誰が誰か判断できる状態ではなく、特定には至っていません」と説明する。
一方、捜査関係者は、「助かった長女は”物音に気づいて目覚めて、隣の部屋を開けたら火が回っていて、逃げるのが精いっぱいでした。何が原因かわかりません”などと話している」という。
叶野さん一家が10月22日から電気を止められていたことは確認されており、ローソク生活だったとの情報もある。
当初、新聞やテレビなどは電気料金滞納→電気を止められローソク生活→貧窮が招いた火災、という図式で報道。話はそのまま、ひとり歩きしてしまった。
出火原因について、消防関係者は、「不明です。調査の結果、出火個所は燃えが最もひどい玄関付近とみられますが、火元をローソクとする根拠は現時点ではありません」と、一切断定していない。
にもかかわらず、”生活苦によるローソク暮らし”という単純な構図を作り上げたメディアに、近くに住む叶野さん夫妻の次女は、「まるで長年ローソクに頼った生活で、それが火事の原因と決めつけたような報道をされてしまった。そんな噂が流れては、3人も成仏できないだろうし、かわいそう……」と戸惑いを隠さない。
「いつもいつも電気を止められて、ずっとローソク生活していたわけじゃなく、たまたま今回、払い忘れて止められちゃっただけなんです。火災の原因も、電気のかわりにローソクを使っていたかも、ローソクが倒れたかどうかも、誰も見ていないからわからない。
漏電なのか、火のついた線香が落ちたのか、ネズミの仕業かもわかっていないのに、親族としては悔しくて受け入れられない思いです」
ただし、美津子さんが、仏壇と神棚のローソクに毎日、火を灯していたのは事実だという。生活も楽だったわけではない。次女によると、一家の生活は両親の年金と姉の母子手当などが中心だった。
母に思いを馳せ、5人の生活ぶりを次のように推し量る。
「母は強い人だから、実際に生活が厳しくてもそれを口に出す人じゃなく、むしろ自分が苦しくても人を助けちゃうような人でした。たとえローソクを立てていたとしても、すぐに生きる死ぬという生活ではないと思っていました」