ホメてほしいから正しい行動をとる
取材前は、どんなスパルタ訓練を受けているのだろうかと想像していた。
多和田さんは「スパルタ訓練なんてしませんよ。そもそも犬を叩くことは100%ありません」と話す。
「調教していたのは昔の話。痛い目に遭いたくなかったら言うことを聞けって。僕は効果がないと考えています。叱りつけても怖がるだけ。間違ったら『ノー』と教え、正しい行動をしたら『グーッド』とホメてあげるんです。笑顔で接するだけでうれしくて尻尾を振ります。またホメてもらいたくて正しい行動をとるようになります」(多和田さん)
人間がニコーッとしたらいいことがある。これでイヤな思いをしたことはない。そう考えるようになるという。
「盲導犬にとってカドや段差や障害物を探すのは楽しいゲームなんです。犬は将来のことを考えたりしません。今はつらいけど、これを乗り越えたら立派な盲導犬になれるなんて考える犬はいない。つらかったら逃げるだけ。飼い主のことを考えているというよりも、自分が心地いいかどうか。盲導犬に崇高な倫理観を求めてもしょうがありません」
犬ではなく人に声をかけよう
青山一丁目駅で転落死した会社員(55)を支えてきたワッフル号は、訓練を受けた北海道盲導犬協会に戻った。同協会によると、職員に囲まれて犬舎で暮らしているという。事故前から同協会が呼びかけてきた言葉がある。
「盲導犬を見つめたり、声をかけたり、体やハーネスを触らないでください。でも、視覚障害者の方には声をかけてください」
犬ではなく人に声をかけよう。前出の多和田さんは「お手伝いしましょうか、と声をかけてほしい。白杖を使う視覚障害者を含め、わずか100メートルでも神経をすり減らさずに歩けたら楽ですから。みなさんが大きなお世話を焼いてくれたらありがたい」と話す。
◎盲導犬にできること
・進行方向に進む
・交差点で止まる
・動いている人や物、頭上の小枝や水たまりなど障害物をよけて歩く
・建物の入り口やドア、駅改札口、バス停、信号機の押しボタンなどを探す
・道路を横断しようとするとき、車が来ていると「進みなさい」の指示に従わない
×盲導犬にできないこと
・信号機の赤と青を識別する
・明日や将来のことを考えて行動する
・地図を覚えてカーナビのように案内する
・ぶつかったら死ぬかもしれない、ケガをするかもしれないなどと想像する
・知らない人にエサをもらってもガマンする