菊谷さんの長男で、七里長浜きくや商店の社長を務める菊谷忠光さん(52)が、そんな北国のかつての暮らしぶりを証言する。

長男の菊谷忠光さん。元警察官で、現在は鰺ヶ沢の町会議員 撮影/竹内摩耶
長男の菊谷忠光さん。元警察官で、現在は鰺ヶ沢の町会議員 撮影/竹内摩耶
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「小学校1年ぐらいだったんだけど、そのころは着る物がなくって、年に1回だけジャージを買ってもらえる。そのジャージを毎日着ていくもんだから、汚くなってボロボロになって、友達からは“臭い”って言われて。

 ところが、おふくろがジャージを強い洗剤で洗ってしまったもんだから、ボロボロになってしまったことがあったなあ(笑)」

 さらには、今ではすっかり好々爺といった感じの静良さんも、かつては手のつけられない酒乱だった。

「今は仏さまみたいだけど、飲めば必ずケンカしてくるの。この人、青たんできてなかったことないぐらいだったな」

 そんな生活の中、菊谷さんの目に飛び込んでくるのは、同じく毛をボロボロにし、人に追われて傷ついた、捨て犬や捨て猫たちだった。

「この店を始めたころ、そこさ段ボール捨ててあったの。見たら、犬が2匹入っていたのさ。1匹は人にやって、1匹は私が拾って、ミルクをやって育てたんだわ。それがここで飼った第1号の犬、ボンだ」

きくや商店を始めて2~3年目のころ
きくや商店を始めて2~3年目のころ

 以来、20匹近い犬、30匹以上の猫を保護しては育てあげた。グレーでしましまの体毛から名づけられたわさおの相棒猫の故・グレ子もまた、捨てられていた猫だった。

「店の前の自動販売機の後ろに、段ボール箱さ入れて捨てられてたの。4匹いたけど2匹はコチンコチンになってたな。白いのとグレ子だけが生き残った。

 私は食べ物もろくに食べられなかったし、いい物も着られなかった。みんなと遊ぶこともできなかったから、情が湧いてしまうんだ。結局、育ててしまうんだなあ!」

 運命の犬・わさおもまた、そんな菊谷さんのもとへ、導かれるようにして9年前の2007年11月にやって来た犬だった。