控訴に反対した議員、賛成した議員の言い分

 しかし、そんな遺族の気持ちとは裏腹に市は2日後に控訴する方針を示す。石巻市議会は判決直後の10月30日に臨時会を開いた。原告の遺族たちは前日までに、各議員に対して控訴に反対するよう求める文書をファクスで流した。

「審議当日も、議員の駐車場の入り口でプラカードを下げて、最後のアピールをしたんです」(前出・今野さん)

 臨時会で亀山紘市長は控訴理由を次のように述べた。

大川小学校自体が指定避難所になっていました。教員が小学校に大規模な津波がくることを予見することは不可能でした。また、午後3時30分からのおよそ7分間で、崩壊の危険がある裏山に、児童のみならず高齢者を含めた100人以上の全員が無事避難できたとは考えられません」

 つまり市側は、大津波襲来の予見性も、裏山へ避難しなかった過失も、市としては認めがたいという主張だった。これでは一歩前進どころか振り出しに戻ってしまう。

 さらに臨時会の審議は、遺族に対して“面従腹背”ともいえる展開をたどる。

 控訴に反対する議員は「遺族をこれ以上苦しめることなく控訴を取り下げるべきだ」「行政として遺族の心情を鑑みることが大事だ」など、遺族に寄り添うべきと意見した。それに対して市側は「判決は津波で亡くなった教職員に責任を負わせるむごい内容」「今後の学校防災に影響が出る」と答弁。議会側が市側を追及しているように見えたのだが、採決を行うと賛成16人・反対10人で控訴方針が可決されたのだ。

'11年4月、震災直後の大川小学校の外観。津波で生徒たちの学舎が無残な状態に
'11年4月、震災直後の大川小学校の外観。津波で生徒たちの学舎が無残な状態に
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 賛否は最大会派『ニュー石巻』でも判断が分かれた。その1人、森山行輝議員は控訴に反対した理由をこう語る。

「“今後も生きるはずだった子どもたちの命がなぜあの場で亡くなってしまったのか”“本来なら生かされる命だった”というのが遺族の方々の思い。学校に子どもを預けているということは、子どもの命も預けているということです。学校で亡くなったのですから、その重みをどう考えるかということです」

 森山議員は続ける。

いまだに遺体が見つからないお子さんもいて、その親御さんは今でも毎日探しているんですよ。それを考えたら控訴して、また何年も国と闘うという状況にするのは適正だとはどうしても思えない

 一方で、同じ会派でも控訴に賛成した阿部正春議員は、

われわれ被災者からしても予見できたとは思えないんですよ。できなかったから何万人も亡くなったんですから。自然災害と言ってしまえばそれで終わりですが、いちばん大事なのは子どもたちの犠牲を無駄にしないこと。三審制なので最高裁までいってはっきりと真実を知り、今後このような悲しいことが起こらないよう防災に生かさなければならないと思いました。控訴に踏み切ったのは感情的なことではなく、真実をより明確にしたいと思ったからです