佐藤充も執筆者として参加した『沿線格差 首都圏鉄道路線の知られざる通信簿』(首都圏鉄道路線研究会/SBクリエイティブ株式会社)
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 これらの結果から、東急東横線、東急田園都市線、小田急線、JR中央線の沿線は高く、湾岸沿いを走る京浜急行、JR京浜東北線(横浜方面)では少し下がり、埼玉県西部に向かう西武新宿線・池袋線、東武東上線は低かった。(データは限られるが)JR常磐線、京成電鉄などの千葉方面は、さらに低いはずだ。まさに、鉄道路線のブランド力と一致する結果になった。

人々の格差まで固定化してはいけない

 ここに、厳しい現実が見え隠れする。

 私立・国立中学を目指す子供たちは、ほとんどが塾へ行って勉強するが、その費用は、(小4から通わせると)総額で200万円を超えると言われている。当然ながら、私立中学・高校の学費は高い。経済力のある家庭だからこそ、ブランド力のある路線に住み、高い教育費を払い、子供たちを中高一貫校で学ばせることができる。

 そして、私立・国立の中高一貫校に進んだ子供たちは、大学受験で公立高校の生徒を圧倒し、高い学歴を得る。そんな彼らが世に出れば、経済力を得て、ブランド力のある路線に住み、子供たちに高い教育費をかける……。格差が世代を超える現実がありそうだ。だからこそ、『下剋上受験』はドラマにもなるのだろう。

 路線ごとにブランド力の差ができるのは仕方がないとしても、人々の格差まで固定化したら社会の活力が失われる。塾や中高一貫校は有利な条件だが、それだけで学歴が決まるわけでも、人生が決まるわけでもない。親世代の筆者としては、やはりすべての子供たちにエールを送りたいと思う。


文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』がある。また、自身のサイト『鉄道業界の舞台裏』も運営している。