「エベレスト登頂」というインパクト

 震災の年の8月。なすびは、四国が舞台の映画に出演したことが縁で知己を得た四国の人たちの「四国八十八ヶ所巡礼の旅をやってみませんか?」という発案を実行する。

「17日間かけて歩きました。真夏の過酷な環境でもしっかり歩けたんです。そのとき同行の人から“あなたの歩き方は山歩きに向いている”と言われたんですね。普通の人が5〜6時間かかるところを僕は2〜3時間で歩けました

 震災・原発事故から時間がたつにつれて物産展も少なくなり、何か風化を食い止めるための旗印になる方法はないかと、なすびは模索した。

「福島に直接ではなく、間接的に何か貢献できないか考え始めました。そこで、考えた末にたどりついたのがエベレスト登頂だったんです」

「中学・高校と卓球部で、山登りの経験なんてまったくない僕がいきなりエベレスト登頂を果たしたら、そりゃインパクトはある。不可能かもしれないけど、奇跡は起こせるかもしれない。もし成功できたら、福島の復興・復旧、新しい挑戦へのきっかけ作りになるかもしれないと思えたんです」

 そこで彼は、エベレスト登山に詳しい国際山岳ガイドの近藤謙司さんに相談してみた。近藤さんが言う。

「'12年に、なすびさんから『エベレストに登りたい』と電話をいただいたんです。なぜ登りたいのかと聞くと“福島を元気にさせたい”と言う。そりゃ、無理だなぁと思いましたよ。素人が簡単に登れるものではないし、下手したら売名行為と思われちゃう。そこで僕も考えました。登山家のようにではなく、シェルパ(現地のガイド)やポーターと同じように荷物を背負って、下から歩いて登るのだったら、それはアリかもしれない、と」

 通常のエベレスト登頂では、カトマンズから飛行機で麓まで向かい、そこから頂上を目指す。それを、車で行けるところまで到達してから徒歩で麓までたどりつくのだ。通常、その行程だけで1週間かかる。

 同じ年の秋、ヒマラヤ山脈のマナスルでの訓練に挑戦する。そこで、近藤さんはなすびの「本気」を見た。

「高度順応もできていて、やる気にしても“本物だな”と思わせました。これは本腰を入れて取り組もうと、帰国してからは冬の谷川岳や八ヶ岳で訓練を積んでもらいました」

大きな借金を抱えてエベレストへ

登山に必要な体力や脂肪をつけるために高カロリーな食事を好むようになったとか 撮影/齋藤周造

 エベレストに挑戦するのに必要なのは訓練だけではない。莫大な資金も必要である。

 入山費用として200万〜300万円をネパール政府に支払う必要がある。旅費、経費、さらにシェルパ、ポーターなど諸々含めると1000万円はかかる。なすびは、そのための資金提供を求め、いろんなところに働きかけた。

 そして、自分でも大きな借金を抱えて、エベレスト登頂に挑んだのだ

 '13年春。いよいよエベレスト登頂開始。なすびは通常1週間かかる麓までの行程を3日でこなした。それも90リットルのザックを背負ってである。

 初挑戦ながら最終アタック地点まで到達。そして山頂まであと100メートル、8700メートルの南峰までたどりついたところで、問題が発覚する。

「登っていくスピードが足りなかったために、酸素がもたないとわかった。6時間以内に下山するしかない。そこで、なすびさんに“今回はあきらめましょう。必ず生きて帰ることが、あなたの使命です”と伝えたんです」と近藤さん。

 なすびはその言葉に従った。ベースキャンプに戻ったなすびは号泣するほかなかった。

 そして、忸怩たる思いを抱えつつ帰国したのだった。

 帰国後は、「2013ふくしまディスティネーションキャンペーン」の応援団長としての活動を始めた。「ふくしま」の文字が入った法被を着て日本中を飛び回った。そんな毎日を送りながらも、再チャレンジを決意する。今回はクラウドファンディングで支援金を募ることにした。インターネット上にサイトを立ち上げて“みなさん、僕の夢に投資してください”と呼びかけた。