温暖なアメリカ西海岸から帰国すると、スーツケースに防寒着を詰めて成田空港に取って返した。ロシア旅行から戻るとすぐ、神奈川県藤沢市の自宅にテレビの取材クルーが来た。

「時差があったし、メチャクチャ大変ですよ。でも、逆に言うと、疲れている暇がないくらい忙しい。あとでゆっくり疲れれば、いいじゃない。アハハハハ」

 そう早口で言って、軽妙に笑い飛ばす。82歳とは信じられないタフさだ。

 しかも、若宮さんがパソコンを始めたのは、なんと還暦を過ぎてからプログラミングを学び始めたのは81歳のとき。それから半年でhinadanを完成させたというから、ビックリだ。

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 快挙の裏には、若宮さんが“師匠”と呼ぶ男性との出会いがあった。スマホアプリの開発やプログラミング教育を手がける宮城県塩釜市の小泉勝志郎さん(テセラクト代表取締役社長)だ。

 若宮さんはNPO法人ブロードバンドスクール協会(以下BBS)の活動で仲間とシニアにスマホを教えている。その活動の一環で、震災復興支援活動をする小泉さんと知り合った。

「お年寄りが若者に勝てるゲームを作りませんか」

 会うたびに、小泉さんは若宮さんにそう話した。一緒にアイデアを練り、生まれたのがhinadanの原型だ。

 それをもとにゲームの仕様書を書いた若宮さんは、小泉さんにアプリを作ってほしいと頼んだ。だが、小泉さんの返答は思わぬものだった。

「僕が作っても話題にならないけど、若宮さんが作ったら、チョー話題になりますよ。僕が教えますから」

 そして昨年8月、無料通話アプリのスカイプやFacebookのメッセンジャーで連絡を取りあい、二人三脚の挑戦が始まった。

若宮さんの師匠、小泉勝志郎さんと。小泉さんにプログラミングを教えてもらいながらhinadanを半年で完成させた
若宮さんの師匠、小泉勝志郎さんと。小泉さんにプログラミングを教えてもらいながらhinadanを半年で完成させた
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 小泉さんによると、若い人でも半年間でアプリを作るのは大変だという。それを当時81歳の若宮さんが成し遂げたのには、いくつかの理由があったそうだ。

「プログラミングって全部、英語で書くんですよ。僕は学生にも教えていますが、みんな英語が出てきた瞬間に動きが止まっちゃう。でも、若宮さんは海外旅行が趣味なので、英語に抵抗がない。

 しかも、BBSの例年行事である翌年の“電脳ひな祭り”までに、絶対に出したいという固い意志がありました。プログラムを作っていると、思うように動かないことがよくありますが、若宮さんはメンタルが強くて心が折れないんですね。そもそも普通のお年寄りは自分でアプリを作ろうとはならないけど、若宮さんの新しいものに対する感度のよさはすごいです」

 若宮さん自身は、どんな思いで取り組んでいたのだろうか。

「だって、年寄りが面白いスマホゲームって、全然ないんですよ。私が習ったswiftという新しいプログラミングソフトは、ある程度までは図を使って感覚的にできるんです。昔みたいに上から下まで全部文字をダーッと打つ必要はありませんが、それでもお世辞にも簡単とは言えないですよ。

 でもね、うまくいかなければ途中でやめればいいわけですし。やめても誰も死なないし、オレオレ詐欺みたいに何百万円も取られるわけじゃないしね(笑)」

 前向きなだけでなく、絶妙な力の抜き加減だ。