コンプレックスや嫉妬の先に……

「例えば、武田鉄矢さんは5人きょうだいの次男だったんですが、1番上の長男は、武田さんより12歳年上で、その間に姉が3人。末っ子の武田さんにとって兄はまるで“他人”のような存在。彼は自著の中で、“母は兄を誇りに思い、いつも兄ばかり可愛がっていて、僕は自分のことも見てほしいとずっと思ってました”と告白しています」

 そんな年の離れた次男が、音楽の道に進み、『母に捧げるバラード』が大ヒット。これをきっかけに、兄弟の立場は逆転。弟の活躍を知った兄は、弟に負けまいと会社を辞めて独立。ところが、事業はことごとく失敗し、多額の借金を抱えてしまう。エリートだった兄の転落は止まらず、鉄矢さんの名前を勝手に保証人にしてお金を借りたり、実家を勝手に担保にしたりと武田家に数々のトラブルを巻き起こしたのだ。兄はその後、病気になり、失意のまま死亡している。それでも、武田鉄矢はこう言った。

「“僕は兄貴に対して強いコンプレックスを持っていました。彼は優等生だったし母からは可愛がられていたし……、兄貴を憎み続けてもいた。でも、そのコンプレックスが自分を成長させてここまで上ることができたと思えるようになったんです。兄貴が今の僕をつくってくれたんだ”ってね」

 人間関係において、きょうだいとは不思議な存在だ。親や配偶者、子どもとも違う。友人とも似ているようで違う。きょうだいとうまく付き合う難しさはどこから来るのか。

「きょうだいの最大のインパクトは、その近さにあります。友人ならば、近づいたり離れたり、距離の調節が容易にできる。ところが、きょうだいだと近さの調節は難しいうえに、関わりの程度も調節しにくい。特に年齢が近いほどそんな傾向がある。一方で、きょうだい特有の一体感もあり、子どものころから生活のあらゆる面で、教える、教わる、遊ぶ、まねる、とさまざまな面で影響を与え合うのです。

 そして支え合い、助け合うのですが、もともとライバル意識も持ち合わせているので、ちょっと歯車が狂うと大変な事態にまで発展する。世の中の事件の大半は、きょうだいや親類、知人など、ごく近い関係で起きています。源頼朝と義経、織田信長と弟、伊達政宗と弟などきょうだいを殺害することはざらにありました。きょうだいゆえに起きた惨劇でもあったのです」

 アンケートで「犬猿な関係」と答えた人のなかには、長く不満をぶつけられないまま強いストレスを抱えている人や、「配偶者が弟を変えてしまった」など新しい家族の存在がきょうだい仲を険悪にしたという声も。

 磯崎教授は、京都で出会った3姉妹の話をしてくれた。

「彼女たちは毎年1回、それぞれの連れ合いを伴って、6人でいろんなところに旅行に出かけるというのです。普段から連絡もとり合っているようです。そもそも女性同士のきょうだいは、男性同士よりも親密な関係を維持しやすい。きょうだいを含めたネットワークづくりを上手に行えるんです」

 親の子育てが与える影響も大きいと言う。

「姉や兄はひいきされると同時に厳しく育てられます。それは下にいくほどゆるくなる。また、下の子はお小遣いの額も少なく、お下がりなど不公平感を味わうことも多い。第1子は、親の期待も大きく、資源(金銭・愛情)も多く提供されるために、学歴や成績に反映されます。

 作家の筒井康隆さんは、4人きょうだいの第1子で、自分だけ小さいころから家庭教師をつけられました。その反面、第1子にはしんどさもつきまとう。一方、出来のいい上のきょうだいを持った下の子が、同じ学校に入学し、教師から“ああ、〇〇の弟か”“兄(姉)さんは頭がよかったのにな”などと言われ、悔しい思いをするんです。

 でも、きょうだいが多いほど離婚率が下がるという報告もある。つまり多くのきょうだいの中でたくさんの葛藤を経験していたほうが対人関係で柔軟に対応しやすい。逆境に強いとも言える

 磯崎教授が共演したことのあるハイヒールのリンゴさんは、3姉妹の次女で、姉と確執があるという。

「親の介護や相続の話でモメたようです。“ずっと姉と比較されて妹は絶対損”と彼女が言うと、妹のいる千秋さんは、“姉だからしっかりしないと。王様的な立場になるのはしかたがない”といった趣旨の理論をある番組で展開したんです。そしたら、放送終了後には、姉のワガママに怒る妹の意見が多数寄せられました」