しかし、それほど大好きでも、前述のとおり添い遂げられない可能性は忘れない。

「添い遂げて永遠の愛もいいけど、何らかの理由で別に暮らす必要が出てくるかもしれない。私は結局、自分に正直がいちばんだと思います。これはトムちゃんも一緒。お互い正直になってストレスを手放すことこそが、仲よくなれる秘訣かもしれませんね

 愛を壊れものだとわかっているからこそ、大切にいつまでも光らせようとするときちゃん。木皿泉の作った光は物語を形作り、モニター越しに私たちを楽しませ続けてくれるだろう。

『木皿食堂3 お布団はタイムマシーン』木皿泉=著(双葉社/税込み1512円)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
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ライターは見た! 著者の素顔

「私が家を離れるとき、トムちゃんはショートステイに行くんですが、何日か後に帰宅すると、恥ずかしがって寄ってこないの」と、ときちゃん。なんと初々しい! 「トムちゃんは愛情を受け取るのが上手。病気で動けないからありがたみがわかるのかもしれないけど、私も彼の不自由を見て自由の価値がわかる。病気前の生活に戻りたいとか、一切ないです。だって今しかないから」。常に“今”を生きる2人だから、いくらしゃべれど新鮮な関係なのかもしれません。

<プロフィール>
きざら・いずみ◎夫婦で共同執筆の脚本家、小説家。夫・和泉務 1952年生まれ、妻・妻鹿年季子 1957年生まれ。ともに兵庫県出身。テレビドラマの代表作に、向田邦子賞受賞作『すいか』をはじめ、『野ブタ。をプロデュース』『セクシーボイスアンドロボ』などがある。

(取材・文/中尾巴)