勤務体系は、週休1日で10時〜22時までの12時間拘束。14時から食事休憩が2時間あるとはいえ、毎日10時間労働だ。給料は月給2500元(約3万8000円)を提示され、試用期間が終わったら3000元(約4万5000円)にアップされるという。これは時給換算するとわずか10元(150円)で、上海のホワイトカラー層の半分以下だ。ボーナスは2年間働いてようやく1カ月分が支給される。

初日から気になった違和感

 翌朝、始業10分前にショッピングセンター内の店の前へ行ったが、ガラス張りのドアはカギがかかっており、周囲には誰もいない。おかしいと思ったが、少し時間を潰して10時ちょうどにもう一度店に行くと、同僚と思しき面々が通路脇のベンチに座ってケータイをいじりながらくつろいでいた。誰も動こうとしていない。

筆者が働いた寿司屋の看板(筆者撮影)
筆者が働いた寿司屋の看板(筆者撮影)
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10時5分。ようやくカギを持ったスタッフが現れ、店の扉が開き始業開始となった。中国人は全般的に時間感覚がユルいので、この程度の遅れは遅れのうちに入らないのだろう。

メンバーたちが集まっても「おはようございます」などの挨拶は一切なく、全員がノソノソと緩慢な動きで制服に着替え始める。マッタリしているので気楽だが、日本の飲食店のようなキビキビ感は皆無だ。

寿司職人の制服というとパリッと糊の効いた白衣というイメージだが、この店でリーダーから「はい」と渡されたのは、真っ黒いヨレヨレの甚兵衛。黒いので汚れは目立たないが、清潔感は乏しい。しばらく洗濯していないような感じもしたが、よくわからない。甚兵衛を私服のTシャツの上から羽織って小ぶりの前掛けをしめ、帽子をかぶって着替えは完了した。

 スタッフは二十歳前後の若者ばかりで、30過ぎの私はおっさん扱いされるんじゃないか、ハブられるんじゃないかと少々心配だったが、みんな年齢差をあまり気にせずフランクに接してくれて、意外と溶け込みやすかった。そのへんの感覚は、欧米人に近いのかもしれない。中国語には敬語表現も英語と同程度にしか存在しないため、社会全体が日本よりもフランクだと言える。

 厨房内はさぞや不衛生な空間かと思いきや、意外と汚くない。ぱっと見、日本の飲食店と大差ないようにも感じられる。とりあえず観察を続けることにした。