熊本の宝、復興のシンボル

2018年夏もフランスへ。トゥールーズのチーズ店から配達を頼まれ、チーズとパンをカゴに入れて自転車で疾走(撮影・筆者)
2018年夏もフランスへ。トゥールーズのチーズ店から配達を頼まれ、チーズとパンをカゴに入れて自転車で疾走(撮影・筆者)
【写真】くまモンの年末年始のご挨拶、フランス出張の写真など

 くまモンは幸せだった。楽しく仕事をし、たくさんの人に元気と笑顔を届け、その笑顔がまたくまモンのエネルギー源になる。そんな毎日が続いていたのだ。

 ところが2016年4月14日21時26分、熊本に震度7の地震が起こる。その晩だけで震度5以上の地震が6回、さらに最初の地震から27時間後、再度震度7に見舞われた。その後も余震はひっきりなしに起こった。熊本には大きな地震はない。誰もがそう思っていたが、この日を境に「被災地」になった。益城町、西原村、南阿蘇村……被害の大きかった地域が連日報道される。フォロワーが約50万人いたくまモンのツイッターも止まった。あの時期、くまモンは何を考えていたのだろう。

「ボクにできることは何だろうって、それだけを考えていたモン」

 くまモンはいつも熊本を全身全霊でPRしてきた。熊本城はむしゃんよか(カッコいい)モン、阿蘇はいいところだから来てはいよ(来てください)というように。あか牛、トマト、ナス、いきなり団子に辛子蓮根(からしれんこん)、阿蘇のジャージー牛乳、そしておいしい水に……。くまモンに熊本のおいしいもの、いいところを紹介してもらったらキリがない。だからこそ、くまモンはさぞ悔しかっただろう。何もできない自分が。大好きな熊本の人々がつらいとき、どうしたらいいのかわからないことが。

 ツイッターではくまモンを心配する声が次々寄せられた。県には全国の子どもたちからたくさんの手紙も届いた。ちばてつや氏、尾田栄一郎氏など名だたる漫画家たちが「くまモン頑張れ絵」として直筆のくまモンの絵をツイッターに載せた。みんながくまモンを、そしてその向こうにいる熊本の人々を心配し、励ましたのだ。

 約3週間後、くまモンは立ち上がる。子どもの日に被災地へ行かせてほしいと知事に頼んだのだ。行き先は西原村の保育園。

「止めたんですよ。だけど、くまモンは飛び出して行ってしまった」(蒲島知事)

 保育園では大勢の子どもたちが待っていた。たったひとりでもいい、その子を笑顔にしたいと意気込んだくまモンくまモン隊も驚いたという。

「子どもたちが笑顔になりました。それを見て親も笑顔になった。お年寄りの中には涙を流してくまモンを拝む方もいました」(県庁くまモングループ)

 その映像はテレビで全国に報道された。

 東京では、アンテナショップ銀座熊本館に連日、長蛇の列ができ、品薄になることもしばしば。ゴールデンウイーク明けに、初めてくまモンが銀座熊本館に登場した日はメディアも殺到した。シャッターが開きかけると、くまモンの足が見えた。くまモンは足をバタバタさせていた。「早くみんなの顔が見たかモン!」という叫びが聞こえてくるようだった。

 くまモンスクエアに現れたのは5月10日。待ち構えていた30人ほどのファンから「お帰り」と声がかかったという。ほぼ毎週末、熊本に通ってくまモンを応援している福岡在住の玉山純子さんは、平日だったこの日、仕事を休んで駆けつけた。

くまモン隊のおねえさんたちも全員いて、くまモンも元気で。よかった、お帰りとくまモンとハグしたんですよ。離れようとしたらくまモンがもう1回、ぎゅうっと抱きしめてくれて。ああ、くまモンも怖かったんだな、大変だったんだなと思ったら涙が止まらなくなった。同時に、くまモンは復興の旗振り役でありシンボルとなると確信しました」

 彼女の言葉どおり、くまモンは復興のシンボルとなった。知事の名代として全都道府県に「復興応援のお礼」を伝えるために訪問した。

 被災後、蒲島知事は言い続けた。

「熊本には3つの宝がある。熊本城と阿蘇とくまモンです。熊本城と阿蘇は傷ついたけど、くまモンは元気です」と。

 小山薫堂さんは、「被災後のくまモンは頼りがいがあるなという印象。またひと回り大きくなった」と語る。

年末年始のご挨拶。「サンくま」はサンキューの意味。「おはくま」「おやくま」などのくまモン語をツイッターで発信している
年末年始のご挨拶。「サンくま」はサンキューの意味。「おはくま」「おやくま」などのくまモン語をツイッターで発信している

 くまモンは毎日忙しいでしょ。疲れちゃったな、もうお仕事イヤになっちゃったなと思うことはないの? そう尋ねると、くまモンはきっぱりと首を横に振った。

「あちこち行って、みんなに会うのが好き?」

 この質問には何度も何度も深くうなずく。

「みんなの笑顔を見るのが大好きなんだモン。ボクは子どもだからむずかしいことはわからんけど、これからもエイエイモーン!!」

 くまモンのふくよかな体には、愛と希望がつまっている。

 

くまモンスクエア  ※在室スケジュールはこちらでチェック
くまモン公式HP  ※2月の大阪・東京ファン感謝祭、3月熊本での誕生祭の情報はこちらから

 

(取材・文/亀山早苗 撮影/宮井正樹)

かめやまさなえ◎1960年、東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動。女の生き方をテーマに、恋愛、結婚、性の問題、貧困やひきこもりなど、幅広くノンフィクションを執筆。大のくまモンファンで、著書『くまモン力』(イースト・プレス刊)もある