おすもうさんは休む暇がない

 さてさて。力士たちはひたすら稽古に励む。この日は巡業に復活したばかりの豪栄道が明生(めいせい)に稽古をつけ、明生は泥だらけになりながら何度も豪栄道にぶつかっていた。

 その度に転がされ、あおむけにゴロンと倒れると、親方衆から「ほら、早く起き上がって。大関待たせるのは失礼なんだよ!」という声が飛び、明生はハアハアしながら立ち上がる。

 会場からも「頑張れ!」の声が飛ぶ。土俵に倒れる明生も、明生を投げる豪栄道も身体がまるで鋼のようだ。強くなるってすごいことだ、と間近で息を飲んで見た。豪栄道は九州場所、右上腕部を傷めて途中休場していたが、この日はだいぶ回復の兆しが見えた気がする。

 大関昇進後にケガをした足指にはテーピングがまだ巻かれていた栃ノ心は、主に土俵下でトレーニングに励んでいた。ほかの力士たちは、おしゃべりをしている人も多いのに、彼は寡黙。ときどき春日野親方とアイコンタクトで語り合うくらいで、一人で腕立て伏せをしたり四股を踏んだり。その横顔、いや、もう、惚れ惚れするほどかっこいい。

 そして間近で見た太もものゴツゴツした太さはビックリするほどだ。これがドーンとぶつかってきたら、どんな衝撃なんだろう。早く怪我を治して、また怖いほど強い栃ノ心を見せてほしい。

 そして遠藤は、相変わらず土俵に上がるだけで大声援を浴びていた。

 碧山と何番も稽古を重ね、いつも通りにサポーターなどは巻かずにいたけれど、5月場所で右腕を痛めてから調子は今ひとつのままだったなぁと思う。気づけば遠藤も28歳。決して若手ではない。期待も大きいだけに、踏ん張りどころかもしれない。

 したり顔で土俵を見つめていると、錦木がせっせとタオルをたたんでいるのが目に入った。力士のみなさん、それぞれ自分のタオルを土俵の周りに置いて稽古をしているのだが、そのタオルを丁寧に一枚一枚畳む錦木……。

 聞けば彼はいつもそうやってタオルをたたんだり、他の力士が土俵で転がり泥だらけになれば、そのタオルで拭いてあげたり、なぜかすすんで皆のお世話係をしてしまうようで。錦木、大好きになってしまうじゃないか!

 そんな風にあれこれ楽しい稽古風景なのだが、しかし、なんとなく全体に疲れた空気が漂っていたのは否めない。直前までが沖縄巡業で、続いての寒い関東地域での巡業。風邪を引いてる力士も多く、土俵からたくさん咳が聞こえたし、土俵の端っこに置かれたくまもんのティッシュで鼻をかむ力士も大勢いた。

くまモンのティッシュと栃ノ心(筆者撮影)
くまモンのティッシュと栃ノ心(筆者撮影)

 思えば、2018年は巡業総回数91回。本場所は年に6回、15日間で総回数90日。他に断髪式やら福祉大相撲などもあって、おすもうさんたちは休む暇がない。これでは成長する時間も、ケガを治す時間もないんじゃないか? と素人ながら考えた。

 巡業での移動は普通の観光バスで、食事はお弁当ばかりだと聞く。もう少し、力士たちへのホスピタリティ改善や休日を増やすことをしてあげてほしいなぁと、力士たちのすぐ側で稽古を見てつくづく感じた。