近年はSNSの充実で、地方からも全国的な人気を獲得するコンテンツが誕生している。これからも確実に地方からスターは生まれ、それらの命は、東京のエンタメ観では見つけられない場所で産声をあげています。そんな輝きや面白さを、いち早く北海道からお届けします。(北海道在住フリーライター/乗田綾子)

ドラマ『チャンネルはそのまま!』HTBのホームページより

 地方でエンタメを享受している者として、久々にテレビの前でうなってしまう作品を見ました。その作品の名は『チャンネルはそのまま!』。

 バラエティー番組『水曜どうでしょう』や『おにぎりあたためますか』など、全国的人気番組をいくつも生みだしてきた北海道のローカルテレビ局・HTBが、開局50周年を記念して制作した連続ドラマです。

 ドラマの原作は2008年~2013年に『週刊ビッグコミックスピリッツ』にて連載された、佐々木倫子先生の同名人気漫画。やはり北海道のローカルテレビ局・HHTVが舞台となっており、謎の採用枠“バカ枠”で採用された新人記者・雪丸花子と、彼女を取り巻くローカルテレビマンたちの日々が、コメディータッチで描かれた作品になっています。

まさかのテレビ局内でそのままロケ

 まずドラマを見て、開始1分半で面白いなと思ったのは、そのあまりにもリアルすぎる「雑然としたHHTV局内の姿」でした。スタジオでの再現……にしては、あまりにも壁のテープ跡や床のシミが生々しい。なんならそのビルの独特のにおいまで漂ってきそうなくらい、まったくウソくささのない映像。

 それもそのはず、この『チャンネルはそのまま!』は、2018年9月まで実際に使用していたHTBの旧社屋が、まるごと撮影に使用されているのです。北海道民だけでなく、全国の視聴者にも『水曜どうでしょう』などの人気番組を通じて、おなじみになっていった、あの社屋です。

 もともと原作に登場する架空のテレビ局・HHTVは、原作者の佐々木先生ご自身が北海道在住ということもあり、HTBをモデルとして描かれたという経緯があります。そしてHTBの社員たちは積極的に取材に協力し、“ネタ”として自分の経験や北海道テレビ事情を語るということもあったのだそう。

 しかし、そういうエピソードが実際にあったとはいえ、本当に使用されていたテレビ局をそのまんまロケ地にし、1本まるまる撮りきってしまった作品の存在を、私はいまだ知りません。

 1968年に開局して以降、50年にわたる視聴者の、そして出演者やテレビ局員の「喜怒哀楽」がしみ込んできたHTB旧社屋。現状どう考えても在京キー局では絶対に成立しないであろうそのリアリティーは、ドラマにおいて登場人物の表情を人間味豊かに引き立たせ、見る者の心を自然とつかんでいきます。