「牛は自由に動ければ、胃袋も活発に動く。食欲も出て、主食の穀物をしっかり食べます。干し草も好きなときに食べられるから、腹八分目で満足して、健康になる。それこそ、牛にとっては楽園のような環境なので、ストレスもたまらない。そうすると、おいしいミルクをたっぷり出してくれるんです」

 牛が自由に動いて、管理に手がかかるぶん、ほかで効率化を図った。

 搾乳は最新式のミルキングパーラーで、1頭につき3分で完了するように。むろん「母さん牛が、命がけでミルクを出してくれるんだから」と機械のようには扱わない。

 牛の首輪に発信機をつけた個別認識システムも導入し、1日の餌(穀物)の量もコンピューターで管理。作業を軽減させた。

「牛舎の増築や機材を購入するたび、借金もしました。儲けが薄い商売なので、それこそ10年かけて、少しずつ借金しては返済して、理想の形をつくっていったんです」

 干し草には果物の皮を混ぜ、飲み水は地下50メートルからくみ上げた天然水に沖縄から取り寄せた化石サンゴを入れて─。これだけ手塩にかけた牛たちのミルクである。

 味は絶品。東京都の乳質コンテストでも3年連続ナンバーワンをとるなど、高い評価を得た。牧場経営も安定し、当初20頭あまりだった牛は、50頭に増やせた。

フリーバーン方式で飼われているため、牛たちはお腹がすいたタイミングで各自、餌スポットへ出かけられる(撮影/齋藤周造)

絞り出したアイデア

 だが、これが災いした。

 ここは、民家が立ち並ぶ都市型ファーム。近隣の住民から、においの苦情が出始めた。

 畜産公害は牧場にとって、存続を脅かす死活問題だった。

「牛が自由に動き回れるってことは、どこにでも糞尿をしちゃうってことなんです」

 頭数が増えれば、その量も多くなる。近隣住民から「においがきつい」と、役所に通報されたこともあった。

「うちは昔から牧場をやってる。それをわかって引っ越してきた、なんて理屈は通用しません。近隣に迷惑をかけないよう、徹底した対策が必要だと、知恵を絞りました」