一般的な対応策は、消臭剤をまくこと。ただ、この水溶液をまけば、牛舎の地面が濡れた状態になる。

「そうすると、牛が横になったり、座ったとき、ベタッとして不快なんですよ。お尻も汚れて、不衛生だし」

 牛への思いが人一倍、強いからこそ、薬品には頼りたくない。解決の糸口は容易に見つからなかった。

 牛に害がなく、コスト面も抑えられる消臭剤。寝ても覚めても考え続けた。やがて、ひとつのアイデアが浮かんだ。

 それがコーヒーだった。

「コーヒー豆には消臭効果があります。豆は高価だけど、炒り終えた皮なら、廃棄するから安く仕入れられるはず。それに、皮は水分を吸収するので、牛舎の地面も濡れるどころか、より乾くはずだと」

牛舎にはカカオの殻とコーヒーの皮が敷き詰められ、ほのかに甘い香りが漂う(撮影/齋藤周造)

 さっそく、知り合いのコーヒー工場を訪れて交渉。話はとんとん拍子にまとまった。

「先方で廃棄したいものを、こっちは欲しいわけですから、安価で、大量に仕入れる契約ができました」

 ただちにコーヒーの皮を仕入れ、まく量とにおいを計測。1頭につきコーヒー10キロで効果が出るとわかり、惜しげもなくまくようにしてから、近隣の苦情はなくなった。

 これが平成4年のこと。

 数年後には、チョコレート工場とも契約を結び、カカオの殻も混ぜるようにした。

 今では、「コーヒーの甘い香りがする牧場」として、近隣から親しまれている。

 さらに、コーヒー消臭から、思わぬ副産物まで誕生していた。

「牛の糞尿に干し草が含まれ、ここにコーヒーの皮、カカオが混ざって約60℃の発酵熱で発酵することで、良質のたい肥ができたんです」

牛の糞尿、干し草、コーヒーとカカオを発酵させたオリジナルのたい肥は大好評(撮影/齋藤周造)

 平成10年から販売を始めたところ、近隣の住民や、農家がトラックで買いつけに来るようになり、現在は年間700トンものたい肥を作っているという。

「循環、ですね」

 他人事みたいにのんきに話すが、発想力とバイタリティーには舌を巻いてしまう。

 ピンチを、見事にチャンスへと変えた。