ところが、平成6年、満を持して発売したものの、消費者に見向きもされなかった。

「こだわり抜いたヨーグルトなので、量産できないですから。コストがかかって、売り値はひとつ1500円(500ml)。なかなか手を出せないですよね」

 ヨーグルトは日の目を見ず、牧場内の直営店などで細々と販売するのみ。むろん、利益も出なかった。

「全国特産畜産物フェア」で自慢のヨーグルトを販売。大ヒットするまでに2年かかった
「全国特産畜産物フェア」で自慢のヨーグルトを販売。大ヒットするまでに2年かかった
【写真】磯沼さんのアイデアたっぷり牧場生活

「牛の楽園」を目指す

 風が変わったのは、発売から2年後、平成8年のこと。

 東京・池袋のデパートで開催された『全国特産畜産物フェア』に出品した際、人気グルメ雑誌『dancyu(ダンチュウ)』(プレジデント社)の編集者の目に留まったことに始まる。

「取材を受け、製造工程を説明したら、興味を持ってくれて。ヨーグルト特集の巻頭5ページで、うちの商品が大々的に紹介されたんです」

 雑誌の発売後は注文が殺到。

 ひとつひとつ手作りなので、生産が追いつかない状態がしばらく続いた。その後も、折に触れ、テレビの情報番組や雑誌で紹介され、『かあさん牛の名前入りプレミアムヨーグルト』は、多くの人に知られる存在となった。

 30年来の親交があり、ヨーグルトを商品化する際、相談を受けたという、無添加食品の宅配会社・生活舎元代表・津田誠一さん(71)が話す。

「ヨーグルトを作ると聞いたとき、うちでも扱うと約束しました。当時、ほかの業者からもヨーグルトの持ち込みがあったけど、すべて断って、磯沼さんのヨーグルトを待とうと。妥協しない性格だからね。間違いなく、上等なものを作るはずだし、他社との価格競争に巻き込みたくなかったんです。味は、想像以上。時間はかかっても、必ず話題になると信じていました」

 これを足がかりに、商品ラインナップも充実させた。

 中でも、4種類の乳牛のミルクをブレンドし、低温殺菌で仕上げた牛乳『みるくの黄金律』は、東京都酪農協同組合乳質改善共励会最優秀賞を5回も受賞。ヨーグルトと並ぶ人気商品になっている。

 現在は、八王子駅前のデパート「セレオ」内にイートイン付きの直営店を出すほか、ネット通販も展開。

 とはいえ、「儲けはとんとん。貯金ができるってことは、ほとんどないですねえ」と磯沼さん。