物心がつくようになると、勇太君はこだわりが強くなり、1日に何回もパニックを起こした。

 例えば、夜7時ジャストに夕飯を食べ始めることにこだわり、1秒でも遅れるとパニックを起こす。甲高い悲鳴を上げて走り回り、そのへんの物を手当たり次第に投げたり、歯形が残るくらい自分の腕を噛んだり、壁にドンドン頭突きしたり……。

「ちゃんとしつけろ!」の声に涙

 好きなパズルもピースを置く順番が決まっている。1つでもピースが足りないとテーブルをひっくり返して暴れるので、同じパズルを3セット買って備えた。

「3、4歳のころがいちばんしんどかったですね。普通の子の100倍くらい大変なわけですよ。こだわりを否定すると不安になって余計パニックになるから、こだわりにはとことん付き合うしかない。

 でも、こっちも疲弊してしまうから、頭にきて私が爆発することも何回もありました。泣きながらバンバン叩きまくったこともありますよ。叩いたってどうしようもないと、わかってはいるんですけどね」

 困ったのは電車移動だ。井の頭線に最初に乗ったとき、旧車両の3000系の各駅停車だった。それ以来、3000系の各停にこだわり、ほかの車両には頑として乗らない。

 いつもは勇太君のこだわりに付き合うが、ある日、急いでいて新車両の1000系に無理やり乗せたら、パニックになった。

 大声でわめき、車内を走り回ってドアに体当たりした。

「静かにさせろ! ちゃんとしつけろ!」

 勇太君は見た目では障がいがわからない。乗客から怒号が飛んでくるが、どうにもできない。立石さんはあふれる涙を止められなかった─。

「子どもの寝顔を見ていて、一緒に死んでしまいたいと思ったことは、何回もあります。首を絞めたりはしませんでしたが……」

 うつうつとした日々を送る立石さんをさらに追い詰めたのは、騒音問題だ。

 自閉症児には聴覚過敏の子が多い。勇太君も幼いころは掃除機、ドライヤーなどの音が苦手だった。パニックを起こさないように、勇太君が寝ている朝6時に掃除機をかけていると、マンションの階下の住人から苦情が来た。多動で日常的に走り回っていた足音にも苛立っていたのだろう。事情を説明してみたが理解はしてもらえず、結局、転居するしかなかった。