'13年6月、生活費に困っていた同僚の従業員から相談を受けた田島さんは、当時の店長に打ち明けると「立場上、応じられないが、従業員同士でなんとかしてくれたら最終的に責任をとる」などと言われ、同僚3人で出し合い205万円を従業員に貸し付けた。

田島さんが13年にわたり働いてきたオートバックス加平インター店

 しかし、返済しないまま従業員は退職、督促にも応じない。田島さんが会社に相談したところ'14年7月、幹部から事情を聴かれた。

 会社は補てんなどの対応はしない一方、「やめるなら50万円払う」と田島さんに退職勧奨をするように。

 '15年4月、田島さんは社長から「契約できないから帰ってくれ」と、雇い止めを宣告された。

 当時を田島さんの妻、A子さん(30代)が振り返る。

「真っ青な顔で帰宅して、食事もとれないし、眠れない。体重もみるみるやせていく。落ち込んだり怒りっぽくなったり、精神的に不安定になり、甘えたい盛りの娘にもかまってあげられない状態でした」

突然の解雇にあ然

 都の労働相談情報センターの介入により、雇い止めは撤回されるが、今度はハラスメントが始まった。田島さんだけ朝礼に参加させない。ほかの従業員には割り当てているロッカーを与えない。クズなどと罵倒される……。

 心身に不調をきたすようになり、'18年5月、「不安障害」と診断される。自宅療養中の11月、田島さんは突然、解雇された。正社員には認められた6か月~24か月の休職制度の適用を、会社は非正規であることを理由に拒否したのだ。

 田島さんには、この春に小学校へ入学した娘がいる。生活の安定を求めて、非正規雇用で通算5年を超えて働いた場合、本人が望めば無期雇用(正社員)に転換するルールに基づき、今年4月から正社員となる予定だった。

 田島さんは言う。

「娘がすごく応援してくれるんですよ。逃げちゃダメだ、あきらめないでパパ、最後まで頑張って、と。同じように悔しい思いをしている非正規は大勢います。やっぱり、こんな理不尽なことには、誰かが声をあげなければなりません」

 アリの一穴がもたらす意義や効果は大きい。田島さんの代理人である、今泉義竜弁護士はこう指摘する。

「これまでは格差を明確に禁じる法律自体がなく、非正規労働者が争いたくても方法がなかった。それができたことは大きい。ただ、抽象的な条文なので抜け穴もある。当事者が立ち上がり、闘いを通じて社会的問題として訴えることで、格差解消につながっていくのではないでしょうか」