佐田医師の無罪判決を求める署名運動が展開される一方、純子さんにとって裁判は屈辱の連続だった。

 胸から検出された唾液は「手術前のほかの医師とのディスカッションでの会話による唾液の飛沫の可能性がある」とされた。

医師は逃げるように病院を出た

 第2回公判で医師の弁護団は《性的に過激な表現の多い作品に出ている女優》などと純子さんを評した。純子さんは「私は芸能関係の仕事をしていますが、そんな仕事ではありません」と憤る。そのほかにも事件にまったく関係のない主張を続け、まるで純子さんが1日中、性的なことばかり考えているかのように貶めたという。

 ほかにも弁護側の証拠提示の際、傍聴者に見える大型モニターで純子さんの上半身裸の手術前写真を映しだそうとすることもあった。傍聴席は毎回、佐田医師の支援者らで埋め尽くされ、検察側証人に対しヤジを飛ばすなど異様な雰囲気だったと、純子さんは裁判を振り返る。

「どうしたら信じてもらえるのか。私、被害者ですよね。せん妄の頭のおかしい女性として扱われ、既往歴などのさまざまな個人情報が漏洩しています。被害者の秘匿ってないんですかね? せん妄かどうかにかかわらず、手術をしていないほうの左胸から大量の唾液と佐田医師の汗などが出た時点でアウトではないですか? 

 佐田医師もやっていないのであれば、事件後、私のところにやってきて、せん妄の説明をし、誤解ですよ、と説得したはずです。それが、警察が駆けつけた後、逃げるように病院を後にしています。

 法廷では、私から佐田さんがよく見えました。せん妄の患者に事件をでっちあげられていると主張するなら、怒って私のほうを睨みつけてもいいですよね。私だったらそうします。でも、佐田医師は後ろめたいことがあるのでしょう。私のほうを1度も見ることはありませんでした」

 純子さんは大きな瞳に涙を浮かべながら懸命に訴えた。

 胸から唾液を含む佐田医師のDNAが検出され、性被害裁判において最も重要視される証拠はそろっている。純子さんは実刑を信じて闘った。しかし、1審判決は、推定無罪にまとめられた。純子さんと医師の証言それぞれを「いずれも信用できる」として判断から逃げた。

「これで無罪だったらどうやって立証すればいいのか、私はただ手術を受けに行っただけなのに」(純子さん)