その後、'90年代になると、出入国管理法の改正により、南米在住の日系人などが数多く来日、またフィリピンなど東南アジアからの移住者も増え、日本人との結婚が相次いだ。

「そうして生まれた“ハーフ”の子どもたちがいまでは成人しています。私のように“ハーフの親から生まれた子ども”も着実に増えている。“ハーフ”をめぐる問題は最近、突如として湧き上がってきた新しいテーマのように思われますが、そうではない。存在が日本社会に組み込まれてこなかったために、いつも“最近のテーマ”であり、“今後の問題”にされてしまうのです」

些細なことでも誰かを傷つける恐れがある

 日本人や日本社会を単一民族のイメージとして描く発想はいまだに強い。

「私はこれまでに多くの“ハーフ”と呼ばれる人々のインタビューを重ねてきました。その中で多く聞かれるのは、やはり見た目との不一致という経験ですね。外見から外国人とみなされてしまった場合、日本生まれ日本育ち、日本語で話していても、国籍を確認されたり、在留カードの提示を求められたりします。

 かたや、アジアをルーツに持つ人たちは見た目から海外ルーツとは思われないために、人間関係のなかでカミングアウトを迫られるという問題も起こります」

 “ハーフ”をカッコいいものとして羨望する一方で、「日本人らしくない」との理由から偏見のまなざしを向ける。このような相反するイメージに、“ハーフ”の人々は常にさらされてきた。

 下地さんは『ハーフ・トーク』というサイトを運営している。“ハーフ”をはじめ海外ルーツの人に向けた情報を発信しているのだが、そこで最近、注目を集めた記事がある。

「ある女性誌の“ハーフ顔美女”というメイク企画に対し、2人の“ハーフ”の女性が抗議したものです」

 彼女たちは「“ハーフ顔”の言葉は、外見に対するステレオタイプを強化し、理想の“ハーフ顔”を作り上げることで、それに当てはまらない人々を傷つけ、コンプレックスを生み出している」と主張したのだ。

「結果、その女性誌の編集部は真摯に素早い行動で対処し、謝罪してくれたようです。些細に思えるようなことでも、とんでもなく誰かを傷つけるおそれがある。偏ったイメージは直すべきではないでしょうか。

 すでに私たちは多様な背景を持つ人たちと隣り合わせに暮らしています。多様な日本人がいて、多様な日本社会であることに、いまこそ気づくときなのだと思います

(取材・文/小泉カツミ) 


《PROFILE》
小泉 カツミ ◎ノンフィクションライター。医療、芸能、社会問題など幅広い分野を手がけ、著名人へのインタビューにも定評がある。『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』『崑ちゃん』ほか著書多数