全国にその患者はおよそ100万人いるとされ、外出先から帰ると、すぐ手洗いを何度もするし風呂にも何度も入る。服を脱いで洗濯機に入れる。家族に強要するケースもあるようだ。鷹仁被告は、

「だから、親子3人で外出するときは『箸』と『箱』と『使い捨てのビニール手袋』を持参するんです」

 と証言台で告白した。

このままでは長女が危ない

 帰宅時、汚れた手で触れなくてもいいように「箸」で照明などのスイッチを入れ、麻衣子さんと鷹仁被告がまずシャワーを浴びる。その間、入浴前の長女は「箱」に入れておく。「ビニールの手袋」は玄関のドアノブなど箸で操作できないものに使う。1箱100枚入りのビニール手袋を、1週間に3~5箱は使っていたという。

 医師から精神安定剤を処方され、「言われたことを否定しないで応じるように」と指導を受けた。麻衣子さんによる暴言と暴力にも触れた。

「ひどい言葉で罵られたり、土下座させられて頭を踏みつけられたり、蹴られたりした。何百回もあった。病気が悪いんだとわかってはいても、ついカッとなることもありました。ボクだけではなく長女も暴言を浴びせられ、ベッドに投げつけられたこともありました。このままでは長女が危ないと思った」(鷹仁被告)

 やがて麻衣子さんは職場に頻繁に電話したり、仕事中でもLINEをしてくるように。

「あなたが帰ってきたとき、子どもはもういないかも」

 鷹仁被告は早退、遅刻、半休、有給休暇などを繰り返しとるようになった。不眠症に陥って仕事が手につかなくなり、メンタルクリニックに通うようになった。医師の診断は「不安神経症」。鷹仁被告と面談した精神科医が弁護側証人として証言台に立った。

「被告自身もうつ病だと思いました。思考低下と視野狭窄(きょうさく)がみられ、麻衣子さんとの共依存から抜け出せない状況に陥っていた。いわばDVの加害者と被害者に近い関係です。だから本気で離婚しようとはしていないし、別の方法をとらなかったのも無理はない」

 と精神科医。