CASE2 ケイコさん(55)の場合

 ケイコさん(55)は、25歳のときにお見合いで5歳上の男性と結婚した。双方の家にとってメリットのある結婚だったという。

「夫の家は旧家で名誉はある。うちは父が一代で築いた資金がある。互いにもっとメリットを高めようということで見合いさせられたんです。夫はボンボンですから茫洋としていますが、やさしい人です。この人となら家庭をつくるにはいいかなと思った」

 2人の子をもうけ、母としては幸せだったと彼女は言う。だが、女としてはどうだったのか。子どもたちがどんどん成長して大学生になると、彼女の心の中にむなしさが募っていった。夫は決して一緒にいて楽しい相手ではない。このまま老いていくことに震えるような焦燥感を覚えた。

「10年ほど前から、知り合いのブティックを手伝っていました。下の子が大学に入った6年前からは本格的にデザインの勉強を始めたんです。今はそのブティックに私がデザインした服やアクセサリーも置かせてもらっていますが、その過程で知り合った取引先の彼と恋に落ちました。付き合うようになって1年半くらいたちます

 彼は8歳下で、やはり家庭がある。仕事の関係でミーティングをしたり食事をしたりする中で、徐々に惹かれていった。

「恋なんかしてはいけないと思っていたし、そもそも自分が恋をするとも思っていませんでした。でも気づいたら彼のことばかり考えて苦しくてたまらなくて……。あるとき食事の後に彼が“もう自分の気持ちを隠しておけないんです”と告白してくれました。私も同じ気持ちだった」

 そのままホテルへ直行、互いの気持ちを確認しあった。それから時折、会うようになったのだが、ふたりの気持ちはそれだけではおさまらなかった。

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「ホテルへの行き帰りを人に見られても困るから、常におどおどこそこそしながら付き合うしかない。それが寂しかったんですよね。彼もそうだったようで、いっそ部屋を借りられたらいいのにねと話したんです」

 彼はまだ子どもの学費がかかるサラリーマン。部屋をもつ経済的余裕はない。彼女はひそかに部屋を用意した。互いの家からも会社からもほどよく離れ、知り合いが住んでいそうにない場所を探しだした。

「部屋はワンルーム。でも小さなキッチンもついているから、そこで食事を作ることもできる。彼を連れていって部屋を見せたら泣き出しちゃったんです。“本当に愛しているのに、何もしてやれなくてごめん”って。でも彼、内緒で貯めていたお金で指輪を買ってくれました」

 ここ半年くらい、互いの事情が許す限り、ふたりは週末をそこで過ごしている。彼が妻にどういう言い訳をしているのか彼女は知らない。

「彼のほうの夫婦関係が見えないので、そこが不安ですが……。私は夫に、“今後、週末は私がいないものと思ってくれないかしら”と言ったんです。すると夫は“わかった”って。もしかしたら夫にもよそに女性がいるのかもしれません」

 それならいっそ離婚したほうがよさそうだが、互いの実家の関係があって離婚はできない。それに夫と彼女の実家の父はなぜかウマが合うようで、ふたりで飲みに行ったりもしているほど。波風立てずに好きなようにしたほうがいいと彼女は判断したのだろう。

「今年のゴールデンウイークもお互いの仕事の合間を縫って、私たちの部屋に3連泊しました。あの部屋にいる限り、誰にも邪魔されずに愛し合える。この年になってこんなことになるとは思わなかったけど、心から好きな人と一緒にいられる時間は、私にとって大きな宝物です」

 恋するようになってから、それまで悩まされていた更年期症状がまったくなくなってしまったという。人間にとって「恋」は心身ともに大きな影響があるのかもしれない。

「ふたりの恋心がすり切れるまで一緒にいたい。ただ、子どもにだけは知られないようにしなくてはと考えています」

 母としての責任だけはいつまでもまっとうしようと決めている。