CASE3 ヨウコさん(48)の場合

 さらに最近は、離婚せず長年、一緒に暮らしている不倫カップルも出てきている。

 ヨウコさん(48)は27歳で結婚して1女をもうけたものの娘が小学校に上がると同時に家を出た。

「家事と子育てに明け暮れる生活に疑問を感じて働きに出たいと言ったものの夫に反対された。それが当時の私には耐えられなくて」

 看護師と助産師の資格を持っていたので、働きながら娘とふたりだけの生活を続けた。

「夫は戻ってこいと言ったけど、戻る気にはなれなかったんです」

 その後、2度ほど恋に落ちた。ただ、娘がいることでその恋を結婚につなげようとは思わなかった。

「恋は恋として終わらせたほうがいいんじゃないかと思っていました。男性とは生活をともにしないほうがうまくいくような気がして」

写真はイメージです
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 2年前、娘が遠方の大学に入学してひとりになった。学費は夫が出してくれた。いくらか仕送りもしているらしい。

「娘を通して夫とはつながっているんだなと思いました。だからといって夫婦関係を戻す気にはなれませんが。夫は“君が最後、寂しくなったら戻ってくる場所があったほうがいいから離婚しない”と。ありがたいような、うっとうしいような(笑)」

 家を出たのは自分の身勝手なので、夫が離婚に同意しない限りはそのままでもいいと彼女は腹をくくっていた。

 娘が大学に入学した当時、彼女には付き合い始めたばかりの5歳下の恋人がいた。

「彼は子どもがいなかったので、付き合い始めてすぐ離婚したいと言い出しました。だけど離婚はよく考えてからのほうがいいと忠告したんです」

 妻は離婚を望んでいないという。それなら無理に離婚する必要もない。彼とは現在、彼女の家でほとんど一緒に暮らしている状態。

「近所の人たちは私が再婚したと思っているみたい。別に言い訳もしないし、彼ともごく普通に出歩いています。だけど、よく考えればお互いに既婚者。結婚生活はどちらも破綻しているんですよね」

 久々に男性とともに暮らしているが、時間があるほうが家事をし、ごく自然に協力しあって生活している。

「この生活が不倫だと思うとわれながら不思議な感じです。私も彼も配偶者が離婚に応じてくれるなら離婚するし、応じてくれないならそれでもいいと思っている。最終的にどうなるかわかりませんが、今、目の前にいる彼との日々が楽しいので、余計なことは考えないようにしています」

 彼女の両親は心配して、

「きちんとした形をとったほうがいいんじゃない?」

 と言ってくるらしいが、彼女も彼も形にこだわるつもりはないらしい。特別な事情がないなら、確かに離婚を急ぐ必要はないのかもしれない。形より内実を選択した結果が今だと彼女は言う。

「公然不倫」の善悪はさておき、今後はこういった「離婚先延ばし男女の事実婚的同居」なども増えていくのではないだろうか。


取材・文●亀山早苗/フリーライター。東京都出身、明治大学文学部卒業。恋愛、結婚、離婚などの男女関係、特に不倫については著作も多く、20年以上もの取材を続けている。最新刊、小説『人生の秋に恋に堕ちたら』(文芸社)が発売中